アスベスト(石綿)肺がん

更新日 : 2020年5月29日

公開日:2019年1月1日

アスベスト(石綿)肺がんの定義

アスベスト(石綿)肺がんの定義として定められているものはありませんが、労災保険制度アスベスト救済制度ではそれぞれ認定(判定)基準が定められています。これらの基準を定めるにあたっては、2005年から「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」が開催され、2006年に「『石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方』報告書」がまとめられています。

アスベスト(石綿)肺がんの患者数

中皮腫では、2017年には1550人の方が亡くなっています中皮腫を含むアスベスト健康被害に占める、アスベスト肺がんの発生数の割合については、「石綿死亡の最新世界疾病負荷推計」のような研究もあります。

出典:2018年11月21日、石綿飛散防止小委員会ヒアリング資料

一方、中皮腫の被害者1に対して、アスベストが原因の肺がん被害者を2と仮定した場合の日本の労災制度や救済制度などの公的制度でどのくらいの被害者が補償・救済されているかが検証されているデータもあります。

出典:「安全センター情報」2018年1・2月号、p.17より

これらの推計を踏まえると、労災制度や救済制度などでも、多くの被害者が認定されていないと考えられます。アスベスト救済制度は中皮腫と肺がんの認定割合が1対1と仮定して制度設計されました。まず入り口での請求・申請数が少ないという問題もあります。過去には、救済制度を所管する環境省の石綿対策健康被害対策室の室長が次のような発言もしています。

肺がんの申請が少ないことは確実でございますし、また、医学的所見として用いるいろいろなパラメータを少しふやして、認定の機会をふやしていくということも必要になると思っております。

出典:中央環境審議会 環境保健部会 石綿健康被害救済小委員会(第7回)議事録

アスベスト(石綿)肺がんの労災制度と救済制度の認定(判定)基準

加えて、労災制度と救済制度の石綿肺がんの認定基準は異なっているので、労災制度では認定されるけれども、救済制度では認定されないという方もいます。「救済制度で認定されなかったから、労災なんてもっと難しいと思っていた」という方もいます。以下に、労災制度と救済制度の認定(判定)基準を示しますが、大きな違いは、労災制度はアスベスト関連の仕事をどのくらいしていたのかという「ばく露歴」を判断の要素に加えていますが、救済制度はそれがなく医学的な所見のみの要件となっています。救済制度は医学的な所見だけなので、いかにも「正しく」かつ「容易に」、認定がされると思われるかもしれませんが必ずしもそうではなく、むしろ労災よりも認定(判定)の基準が狭くなっています。

アスベスト(石綿)肺がんの労災認定基準

労災制度でのアスベスト(石綿)肺がんは次のようになっています。

アスベスト肺がん労災認定基準

出典:アスベスト(石綿)労災認定基準

胸膜プラーク所見の重要性

このうち、②の「胸膜プラーク所見がある+石綿ばく露作業従事期間1年以上」の基準で労災認定をされている方が約6割となっています。胸膜プラークの診断結果(とりわけ、胸部レントゲン、CT)が医師によってバラツキがあるのが現状です。また、手術時に肉眼で確認できる胸膜プラークの6割がCT等で確認できないとする研究(千葉労災病院・由佐氏ら)もあります。ある患者さんの中には、CTを確認した主治医から「アスベストは関係ない」と言われたのち、主治医に「胸膜プラーク確認のため、術中の写真撮影」を要請し、術中の写真で胸膜プラークが確認されて労災認定された方もいます。

胸膜プラーク(画像上)

レントゲンやCTの画像から確認できる胸膜プラーク
出典:労災疾病等医学研究普及サイト アスベスト関連疾患 石綿による疾病の認定基準

胸膜プラーク

石灰化した胸膜プラーク(クリーム色の部分)
出典:労災疾病等医学研究普及サイト アスベスト関連疾患 アスベストばく露による医学的所見

アスベスト(石綿)肺がんの救済制度判定基準

労災制度でのアスベスト(石綿)肺がんは次のようになっています。

アスベスト救済制度肺がん判定基準

出典:独立行政法人 環境再生保全機構 石綿健康被害救済制度 医学的判定の考え方

アスベスト(石綿)肺がんに自分は関係ある!?

主治医の先生から「タバコが原因」と言われた、という方もまずお問い合わせください。そもそも喫煙歴の有無は、認定されるか否かに全く影響しません。認定基準を正確に理解している医療関係者はそれほど多くありません。また、認定基準にある「胸膜プラーク」や「石綿肺」の所見の有無については、専門家の中でも評価が分かれることも珍しくありません。

胸膜プラークについては、レントゲンやCTなどの画像所見での確認できないものが、手術時や剖検時などに肉眼的に確認できる症例も少なくありません。「肺癌取扱い規約(第7版)」(日本肺癌学会編、2010年)からは、肺癌手術記載における事項に関して、胸膜プラークの存在の有無、および存在した場合にはその状態を記載すること、と改訂されています。

最大の被害は建設業

日本で使用されてきたアスベストは、約9割が建設資材にとして建設現場で使用されてきています。アスベストをめぐる労災認定では全産業の半数以上を建設業が占めており、被害の実態を端的に表しているかと思います。建設業と一口に言っても、職種としては「はつり・解体工」、「左官」、「築炉工」、「電気工」、「塗装工」、「内装工」、「保温工・断熱工」、「大工」、「吹付工」、「事務」、「配管工」、「型枠工」、「屋根・外壁工」、「とび工」、「電工補助」、「現場監督」など多種にわたります。職業性疾患・疫学リサーチセンター理事長だった海老原勇医師の研究では、肺がんでお亡くなりになった建設労働者の解剖結果で、55例中48例(87.3%)に「胸膜プラーク」などのアスベストと関係する所見が認められました。肺がんになった約9割の建設作業者の方が「労災認定」相当の所見が認められたことになります。

30年以上前に肺がんでお亡くなりになられた方の申請が、救済制度(労災時効制度)で認められることもあります。とりわけ建設業に従事していて肺がんになった方は、いくらタバコを吸っていた方でも一度お問い合わせください。

2019年12月には、肺がん患者団体である「ワンステップ」と協同で、「アスベスト(石綿)肺がんの認識に対する医療関係者および患者・家族の実態調査」について日本肺癌学会で報告もしています。ご参考になさってください。

アスベスト肺がんでよくある問い合わせ(Q &A)

Q1 建設業に従事していましたが、若い頃から毎日のように大量にタバコを吸っていました。長い期間の喫煙歴は労災請求に影響しないのでしょうか。

石綿疾病の労災認定基準には喫煙歴を考慮して何らかの基準が設けられているわけではありません。国際的な石綿疾患の診断基準を示しているヘルシンキ・クライテリアも次のような指摘をしています。

喫煙は肺がんリスク全体に影響を与えるものの、この影響は、石綿ばく露に起因する肺がんリスクの重要性を減じるものではない。

出典:井内康輝ほか翻訳監修「石綿、石綿肺、及びがん、診断及び原因判定に関するヘルシンキクライテリア2014年版:勧告(監修者最終統合版)」『産業医学ジャーナル』第39号第5号

もちろん、喫煙によって肺がん発症に与えた影響は皆無ではありませんが、どちらが大きく寄与したのかは審査等には含まれません。

Q2 建設業に従事してきて肺がんを発症しました。主治医には、「タバコが原因」と言われています。そのような場合はやはり労災請求などは難しいのでしょうか。

石綿に関連のある肺がんかどうかは、CT画像から石綿肺の状態や胸膜プラークの有無など、慎重な判断が求められます。大きな病院の呼吸器内科の先生から言われたから間違いないということにはただちに結びつかず、診断にあたった医師がどの程度のじん肺や石綿関連疾患の診察を経験してきたのかに影響します。そのような経験豊富な専門家の中でも、診断に食い違いが生じることも珍しくありません。石綿肺がんの労災認定をめぐる裁判でも、あるいは茨城労働局では労災協力医が診断を誤るなどの事例もあります。

Q3 胸膜プラークはレントゲン・CT画像でしか確認できないのでしょうか。

手術をされる方は、肉眼での目視による確認が可能な場合があります。故・海老原勇医師の報告では、建設業関係者(空調・保温、鳶・ハツリ、大工、配管工、電工、左官・タイル、鉄工・板金、塗装、内装・防水、設備、土木、現場監督、運転、その他)の肺がん罹患者の胸膜プラーク所見の有無等を調査したところ、3.26パーセントの肺がん罹患者には「剖検のみで胸膜肥厚を認めた」とする報告もあります(海老原勇「建設作業者の肺がんと石綿肺の診断基準」『社会労働衛生』第15巻第2号、pp.57-58)。

Q4 剖検(解剖)はどこの病院でも、お願いすればすぐにしてくれるのでしょうか。

病院によって引き受けてくださる所と、そうでない所があります。また、病理医のスケジュールの確保と準備が必要です。事前に医師などの病院スタッフの方々にご相談して頂くのが良いと考えます。病理解剖にあたっては、具体的に次のような依頼をかけてください。

・両肺における壁側胸膜の胸膜肥厚斑(プラーク)の肉眼での確認と壁側胸膜全体のデジタルカメラでの撮影をお願いする。

・その上で、胸膜及び肺をそのまま摘出し、胸膜肥厚斑も剥離の上、それぞれホルマリン固定をお願いする。

・加えて、両肺における上葉・中葉・下葉の立体組織(一辺3cm以上)のパラフィンブロック作成をお願いする。