アスベスト(石綿)肺がんの診断と原因・治療・給付と補償

更新日 : 2020年7月23日

公開日:2019年1月1日

目次

アスベスト(石綿)肺がんの定義と原因

肺がんは肺胞や気管支、肺の気管支の細胞ががん化したものを指します。肺がんは大きく、非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)と小細胞肺がんに分けられます。1年間に12万5000人ほどが罹患しています。

肺の構造

出典:国立がん研究センター がん情報サービス 肺がん(はいがん)

アスベスト(石綿)肺がんの定義として定められているものはありませんが、基本的にはアスベストばく露をして、それが原因となって発症した肺がんを指します。労災保険制度アスベスト救済制度ではそれぞれ認定(判定)基準が定められています。これらの基準を定めるにあたっては、2005年から「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」が開催され、2006年に「『石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方』報告書」がまとめられています。

アスベスト肺がんについては、「量-反応関係」(石綿ばく露が多いほど、肺がんリスクが上昇する)が認められています。また、アスベストばく露に加えて喫煙歴があることでも、肺がんリスクが相乗的に高くなるともされています。一方で、アスベストばく露が数ヶ月(1941年から1954年まで操業のニュージャージーのアスベスト工場の作業者)であっても、一般市民との比較において肺がんの発症リスクが優位に高いとする研究報告もありました。

アスベストばく露の原因はないですか?

アスベストを含有した製品は、これまでに3000種類にも及ぶとされています。中でも、代表的なのはアスベスト含有建材です。それ以外にも鉄道・水道・自動車・農薬・建築・セメント・造船・発電などの各分野で用いられました。

  • アスベスト製品の製造や加工
  • アスベスト原料や製品の袋詰め、運搬作業
  • 耐火建築物の鉄骨への吹き付け作業
  • 断熱資材の取り付け、ボイラーやスチーム管などに断熱材を巻く作業
  • アスベストスレートなど建築資材の切断・加工・破砕などの作業
  • 電気配線工事や配管工事
  • 建築物の補修や解体
  • 造船や船舶の修繕、自動車整備
  • タルク、バーミキュライトなどの取り扱い
  • 石綿鉱山での掘削・運搬等の作業
  • 以上の周辺での作業

アスベスト(石綿)肺がんの患者数

中皮腫では、2017年には1550人の方が亡くなっています中皮腫を含むアスベスト健康被害に占める、アスベスト肺がんの発生数の割合については、「石綿死亡の最新世界疾病負荷推計」のような研究もあります。

出典:2018年11月21日、石綿飛散防止小委員会ヒアリング資料

一方、中皮腫の被害者1に対して、アスベストが原因の肺がん被害者を2と仮定した場合の日本の労災制度や救済制度などの公的制度でどのくらいの被害者が補償・救済されているかが検証されているデータもあります。

出典:「安全センター情報」2018年1・2月号、p.17より

これらの推計を踏まえると、労災制度や救済制度などでも、多くの被害者が認定されていないと考えられます。アスベスト救済制度は中皮腫と肺がんの認定割合が1対1と仮定して制度設計されました。まず入り口での請求・申請数が少ないという問題もあります。過去には、救済制度を所管する環境省の石綿対策健康被害対策室の室長が次のような発言もしています。

肺がんの申請が少ないことは確実でございますし、また、医学的所見として用いるいろいろなパラメータを少しふやして、認定の機会をふやしていくということも必要になると思っております。

出典:中央環境審議会 環境保健部会 石綿健康被害救済小委員会(第7回)議事録

アスベスト(石綿)肺がんの治療法

アスベストが原因の肺がんということで、一般的な肺がんの治療と違いが出てくるわけではありません。また、予後についても、差異が生じるといった研究報告などはありません。ただし、アスベスト肺がんの患者さんの中には、石綿肺を合併されておられる方もいます。その場合、石綿肺の進行度にもよりますが、手術や抗癌剤等の治療に対して制限がかかってくる場合もあります。

肺がんの治療は、病理組織の型、病期、年齢、患者さん自身の身体状態、患者さん本人の治療方針の希望などによって担当医の先生と相談をしながら決められます。

非小細胞がんでは、基本的に手術の検討がされ、薬物療法を再発予防のために薬物療法がされることもあります。また、年齢、身体状態、他疾患の影響などで手術が困難な場合や、手術でがんの一部しか取りきれない場合には放射線治療がおこなわれることがあります。後者の場合、同時に薬物療法(化学放射線療法)をするケースもあります。肺がんが進行している場合には、治療の中心は薬物療法となります。

小細胞がんでは、薬物療法を中心に治療が進められます。稀に、早期の場合について手術が実施されます。限局型の場合は放射線治療を併用していくこともあります。

肺がんの治療

出典:テラのがん免疫療法情報ガイド 肺がん病気別にみた治療法の選択

アスベスト(石綿)肺がんの労災制度と救済制度の認定(判定)基準

加えて、労災制度と救済制度の石綿肺がんの認定基準は異なっているので、労災制度では認定されるけれども、救済制度では認定されないという方もいます。「救済制度で認定されなかったから、労災なんてもっと難しいと思っていた」という方もいます。以下に、労災制度と救済制度の認定(判定)基準を示しますが、大きな違いは、労災制度はアスベスト関連の仕事をどのくらいしていたのかという「ばく露歴」を判断の要素に加えていますが、救済制度はそれがなく医学的な所見のみの要件となっています。救済制度は医学的な所見だけなので、いかにも「正しく」かつ「容易に」、認定がされると思われるかもしれませんが必ずしもそうではなく、むしろ労災よりも認定(判定)の基準が狭くなっています。

アスベスト(石綿)肺がんの労災認定基準と問題点

労災制度でのアスベスト(石綿)肺がんは次のようになっています。

アスベスト肺がん労災認定基準

出典:アスベスト(石綿)労災認定基準

このような基準になっていますが、故・海老原勇医師は、広範囲の胸膜プラーク所見については、肉眼ではそうであっても、CT画像で胸壁内側の1/4との基準に該当する例は多数あること、②CT画像で胸壁内側の1/4との基準に該当せずとも、石綿小体は高濃度の検出をされる例は少ないこと、などが指摘されおり、そもそも認定基準の指標としてある肺がんリスク2倍について、クロムやタール物質ではリスクの程度について基準を設けていないことを指摘しています。

胸膜プラーク所見の重要性

このうち、②の「胸膜プラーク所見がある+石綿ばく露作業従事期間1年以上」の基準で労災認定をされている方が約6割となっています。胸膜プラークの診断結果(とりわけ、胸部レントゲン、CT)が医師によってバラツキがあるのが現状です。また、手術時に肉眼で確認できる胸膜プラークの6割がCT等で確認できないとする研究(千葉労災病院・由佐氏ら)もあります。ある患者さんの中には、CTを確認した主治医から「アスベストは関係ない」と言われたのち、主治医に「胸膜プラーク確認のため、術中の写真撮影」を要請し、術中の写真で胸膜プラークが確認されて労災認定された方もいます。

故・海老原勇医師の研究によれば、「高濃度ないし長期間の石綿暴露を受けた例でも、若年者、中年者では胸膜プラークの繊維化がすすんでおらず、CTでも診断は困難である。CTでも診断は困難である。CT画像で軽度の胸膜プラークと判断された例は剖検すると広範囲に進展していることが多い」としています(海老原勇「石綿による肺癌の認定基準に関する検討会での問題点」『社会労働衛生』第9巻第4号、p.25)。

胸膜プラーク(画像上)

レントゲンやCTの画像から確認できる胸膜プラーク
出典:労災疾病等医学研究普及サイト アスベスト関連疾患 石綿による疾病の認定基準

胸膜プラーク

石灰化した胸膜プラーク(クリーム色の部分)
出典:労災疾病等医学研究普及サイト アスベスト関連疾患 アスベストばく露による医学的所見

アスベスト(石綿)肺がんの救済制度判定基準

労災制度でのアスベスト(石綿)肺がんは次のようになっています。

アスベスト救済制度肺がん判定基準

出典:独立行政法人 環境再生保全機構 石綿健康被害救済制度 医学的判定の考え方

アスベスト(石綿)肺がんに自分は関係ある!?

主治医の先生から「タバコが原因」と言われた、という方もまずお問い合わせください。そもそも喫煙歴の有無は、認定されるか否かに全く影響しません。認定基準を正確に理解している医療関係者はそれほど多くありません。また、認定基準にある「胸膜プラーク」や「石綿肺」の所見の有無については、専門家の中でも評価が分かれることも珍しくありません。

胸膜プラークについては、レントゲンやCTなどの画像所見での確認できないものが、手術時や剖検時などに肉眼的に確認できる症例も少なくありません。「肺癌取扱い規約(第7版)」(日本肺癌学会編、2010年)からは、肺癌手術記載における事項に関して、胸膜プラークの存在の有無、および存在した場合にはその状態を記載すること、と改訂されています。

最大の被害は建設業

日本で使用されてきたアスベストは、約9割が建設資材にとして建設現場で使用されてきています。アスベストをめぐる労災認定では全産業の半数以上を建設業が占めており、被害の実態を端的に表しているかと思います。建設業と一口に言っても、職種としては「はつり・解体工」、「左官」、「築炉工」、「電気工」、「塗装工」、「内装工」、「保温工・断熱工」、「大工」、「吹付工」、「事務」、「配管工」、「型枠工」、「屋根・外壁工」、「とび工」、「電工補助」、「現場監督」など多種にわたります。職業性疾患・疫学リサーチセンター理事長だった海老原勇医師の研究では、肺がんでお亡くなりになった建設労働者の解剖結果で、55例中48例(87.3%)に「胸膜プラーク」などのアスベストと関係する所見が認められました。肺がんになった約9割の建設作業者の方が「労災認定」相当の所見が認められたことになります。

30年以上前に肺がんでお亡くなりになられた方の申請が、救済制度(労災時効制度)で認められることもあります。とりわけ建設業に従事していて肺がんになった方は、いくらタバコを吸っていた方でも一度お問い合わせください。

2019年12月には、肺がん患者団体である「ワンステップ」と協同で、「アスベスト(石綿)肺がんの認識に対する医療関係者および患者・家族の実態調査」について日本肺癌学会で報告もしています。ご参考になさってください。

建設労働者(型枠大工)のアスベスト(石綿)肺がん事例

被災者のAさんは、昭和34年から46年までの約12年間は労働者として、昭和46年から平成25年にかけて一人親方及び事業主として建設作業に従事しました。Aさんは型枠大工として作業をしていましたが、石綿吹き付け、石綿被覆管の加工、スレート板の加工、モルタルの投入などがおこなわれている環境で作業をしていたことからアスベストばく露をしました。現場には、千葉県内の消防本部庁舎の建設工事も含まれていました。
Aさんは発病時、CT検査で異常陰影を指摘されましたが、のちに肺がん(扁平上皮がん)と診断され、それからわずか約3ヶ月で他界されました。労災請求では、東京労働局労災医員によって、胸部CT画像で石綿肺の所見と石灰化を伴った広範囲の胸膜プラークも確認されたことで労災認定されました。

Aさんの死亡診断書における死因は、「間質性肺炎の急性増悪」でしたが、直接死因の原因欄に「肺扁平上皮癌」と記載されており、労災医員からも「経過と所見から肺癌の進行及び石綿肺の急性増悪により死亡したものと判断される」とされました。

アスベスト肺がんでよくある問い合わせ(Q &A)

Q1 建設業に従事していましたが、若い頃から毎日のように大量にタバコを吸っていました。長い期間の喫煙歴は労災請求に影響しないのでしょうか。

石綿疾病の労災認定基準には喫煙歴を考慮して何らかの基準が設けられているわけではありません。国際的な石綿疾患の診断基準を示しているヘルシンキ・クライテリアも次のような指摘をしています。

喫煙は肺がんリスク全体に影響を与えるものの、この影響は、石綿ばく露に起因する肺がんリスクの重要性を減じるものではない。

出典:井内康輝ほか翻訳監修「石綿、石綿肺、及びがん、診断及び原因判定に関するヘルシンキクライテリア2014年版:勧告(監修者最終統合版)」『産業医学ジャーナル』第39号第5号

もちろん、喫煙によって肺がん発症に与えた影響は皆無ではありませんが、どちらが大きく寄与したのかは審査等には含まれません。

Q2 建設業に従事してきて肺がんを発症しました。主治医には、「タバコが原因」と言われています。そのような場合はやはり労災請求などは難しいのでしょうか。

石綿に関連のある肺がんかどうかは、CT画像から石綿肺の状態や胸膜プラークの有無など、慎重な判断が求められます。大きな病院の呼吸器内科の先生から言われたから間違いないということにはただちに結びつかず、診断にあたった医師がどの程度のじん肺や石綿関連疾患の診察を経験してきたのかに影響します。そのような経験豊富な専門家の中でも、診断に食い違いが生じることも珍しくありません。石綿肺がんの労災認定をめぐる裁判でも、あるいは茨城労働局では労災協力医が診断を誤るなどの事例もあります。

Q3 胸膜プラークはレントゲン・CT画像でしか確認できないのでしょうか。

手術をされる方は、肉眼での目視による確認が可能な場合があります。故・海老原勇医師の報告では、建設業関係者(空調・保温、鳶・ハツリ、大工、配管工、電工、左官・タイル、鉄工・板金、塗装、内装・防水、設備、土木、現場監督、運転、その他)の肺がん罹患者の胸膜プラーク所見の有無等を調査したところ、3.26パーセントの肺がん罹患者には「剖検のみで胸膜肥厚を認めた」とする報告もあります(海老原勇「建設作業者の肺がんと石綿肺の診断基準」『社会労働衛生』第15巻第2号、pp.57-58)。

Q4 剖検(解剖)はどこの病院でも、お願いすればすぐにしてくれるのでしょうか。

病院によって引き受けてくださる所と、そうでない所があります。また、病理医のスケジュールの確保と準備が必要です。事前に医師などの病院スタッフの方々にご相談して頂くのが良いと考えます。病理解剖にあたっては、具体的に次のような依頼をかけてください。

・両肺における壁側胸膜の胸膜肥厚斑(プラーク)の肉眼での確認と壁側胸膜全体のデジタルカメラでの撮影をお願いする。

・その上で、胸膜及び肺をそのまま摘出し、胸膜肥厚斑も剥離の上、それぞれホルマリン固定をお願いする。

・加えて、両肺における上葉・中葉・下葉の立体組織(一辺3cm以上)のパラフィンブロック作成をお願いする。

Q5 アスベストと肺がんとの関係が労災などで認められず、裁判をしているという話も聞きます。これまでにどんな判決が出されているのでしょうか。

アスベスト労災が認められず、裁判を起こした事例もあります。アスベスト(石綿)肺がんの認定基準と労災裁判(行政訴訟)をご確認ください。また、労災認定等がされた上で、雇用されていた会社や国に補償を求めるケースもあります。中皮腫・アスベスト(石綿)疾患の裁判などによる賠償金(給付金)をご確認ください。

Q6 アスベストが肺がんの原因になるのはいつ頃からわかっていたのでしょうか。

国際的には1955年10月に英国産業医学雑誌(BJIM)で発表されたリチャード・ドール医師の報告があります。ドールの報告では、石綿工場における1935年以降の105人の死因に関する検死官の病理記録を分析し、肺がん死亡者18名で、このうち石綿肺を合併していたものが15名にのぼるなどを確認し、20年以上の勤労者について、肺がん発症リスクは一般人との比較で10倍になっているとしました。この報告は、アスベストと肺がんとの関連性を確定的にしたものとされています。

参考

国立がん研究センター がん情報サービス 肺がん(はいがん)

がんを学ぶ 肺がんの基礎知識 肺がんとは

国立がん研究センター がん情報サービス 肺がん(肺がん) 治療 

独立行政法人 環境再生保全機構 アスベスト(石綿)とは?

厚生労働省 石綿による疾病の労災認定

2018年11月21日、中央環境審議会大気・騒音振動部会石綿飛散防止小委員会ヒアリング資料

・海老原勇「石綿による肺癌の認定基準に関する検討会での問題点」『社会労働衛生』第9巻第4号

・海老原勇「建設作業者の肺がんと石綿肺の診断基準」『社会労働衛生』第15巻第2号、pp.57-58

・中皮腫・じん肺・アスベストセンター編(2009)『アスベスト禍はなぜ広がったのか―日本の石綿産業の歴史と国の関与』日本評論社