石綿健康被害救済法(石綿健康被害救済制度)

はじめに

石綿健康被害救済法(石綿健康被害救済制度)は、アスベストが原因の病気(中皮腫・石綿肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚など)に罹患した方で、一定の基準を満たす方が受給できます。仕事が原因であったか否かを問わずに認定される制度であり、とりわけ中皮腫の場合は診断に間違いがなければ認定されます。
救済制度と労災保険との同時申請は可能ですので、労災請求の決定が出るまでのあいだ、救済給付を申請・受給される方も多くいます(重複して受給することはできませんので、両制度での認定後はいずれかの給付を受給することになります)。

石綿健康被害救済法とは

この法律は、石綿工場周辺に暮らしていた住民やアスベストに関わる仕事をしていた労働者の家族、事業主や一人親方で労災保険に特別加入していなかったという方、アスベストが原因と疑われる疾患で、仕事との因果関係がわからない(どこでアスベストを吸ったかわからない)といった方など、アスベスト被害を受けたあらゆる人々の「すきまのない救済」を目的とした法律です。
2005年に、クボタショック(注)が起こり、アスベスト工場周辺の住民被害が明らかになりました。これを受けて、さまざまな被害実態が明るみになり、被害を受けた受けた患者と家族、遺族らが、「すべての被害者の救済を!」と命がけの訴えを行いました。そして、2006年3月に施行されたのが、この法律です。
この法律は、大きく分けて「救済給付」と「特別遺族給付金」の二つの制度から構成されています。実施機関は環境省が管轄する独立行政法人環境再生保全機構です。救済給付に充てる財源は「石綿健康被害救済基金」として積み立てられており、国・地方公共団体(都道府県拠出金)・事業主(「一般拠出金(労災保険適用事業主)」と「特別拠出金(特別事業主)」)から拠出されています。特別事業主とは、特に石綿の使用が多く、労災認定者を発生させている4事業者です。ニチアス、エーアンドエーマテリアル、太平洋セメント、クボタが指定されています。

申請手続き

石綿救済給付の申請は、申請関連書類を環境再生保全機構に郵送するか、地域の保健所を通じて申請することができます。申請書類は、環境再生保全機構(0120-389-931)に連絡をしていただければ、すぐに送付してくれます。また、地域の保健所でも書類をもらうことができます。

申請にあたっては、申請関連書類に添付されている専用の様式に医師の診断なども記載してもらうことが必要です。書類の作成をお願いする場合、病院によっては「がん相談支援センター」や「患者相談室」などがありますので、主治医をはじめとする病院内の連携をスムーズにしてもらうために相談していただくもの良いかと思います。

給付内容

認定された場合の給付内容としては、①医療費(医療費の自己負担分が免除される)、②療養手当(月額10万3,870円)、③葬祭料(19万9,000円)となっています。また、認定後に亡くなられた方で、支給された医療費と療養手当の合計が一定額に満たない場合には、「救済給付調整金」が支給されます。また、亡くなられた後に認定された方については、ご遺族に、特別遺族弔慰金(280万円)と特別葬祭料が支給されます。

なお、労災保険制度と比較して給付内容が低いですので、どなた様も必ず一度は労災請求を検討してください。「自分には労災は関係ない、難しいと思っていた」と誤解されている方も少なくありません。少しでも不明な点がある方はお問い合わせください。

判定基準

○中皮腫

石綿救済制度では、「中皮腫であること」が認められることで認定となります。「アスベストばく露が原因であること」などの要件はありません。ただし、主治医の診断と判定をする医師たちとで見解が異なる場合があります。中には、一度、不認定とされた方が申し立てをして認定されるケースもありました。このような方は速やかにご相談を頂くようお願いします。詳しくは、「石綿健康被害救済制度で中皮腫の確定診断が否定された!?公害健康被害補償不服審査会で「中皮腫とは判定できない」とされた処分の取り消し事例」をご参照ください。

○肺がん

「原発性肺がん」に加えて、次の(ア)〜(ウ)のいずれかの医学的所見が確認される必要があります。「アスベストによる肺がん」でも、触れているように労災認定よりも基準が厳しくなっているのが特徴です。

  • (ア) 胸膜プラーク所見があること(胸部エックス線検査または胸部CT検査)
     +
    胸部エックス線検査でじん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見があり、胸部CT検査においても肺線維化所見が認められること
  • (イ) 広範囲の胸膜プラーク所見があること(以下のいずれかの場合)
    • 胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT 画像によりその陰影が胸膜プラークとして確認されること
    • 胸部CT 写真で、胸膜プラークの広がりが左右のいずれか一側の胸壁内側の4分の1以上あること
  • (ウ) 石綿小体または石綿繊維の所見があること(以下のいずれかの場合)
    • 乾燥肺重量1g当たり5,000本以上の石綿小体
    • 乾燥肺重量1g当たり200万本以上の石綿繊維(5μm超)
    • 乾燥肺重量1g当たり500万本以上の石綿繊維(1μm超)
    • 気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体
    • 肺組織切片中の石綿小体
      ※ 複数の肺組織切片を作製した場合には、そのいずれにも石綿小体が認められる必要がある。

○石綿肺

以下の条件にすべて合致している必要があります。ただし、じん肺所見については専門家の間でも判断にばらつきが目立ちます。複数の経験豊富な医師の診断を仰ぐことが大切です

「大量の石綿ばく露があること」、「胸部単純エックス線画像で、じん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見があること」、「著しい呼吸機能障害があること」、「他疾患との鑑別ができること」。

○びまん性胸膜肥厚

以下の1〜4の条件をすべて満たす必要があります。

1. 大量の石綿ばく露(石綿ばく露作業への従事期間が概ね3年以上)があること

2. 臓側胸膜に一定以上肥厚の広がりがあること

胸部単純エックス線画像上に、

  • 片側のみ肥厚がある場合 → 頭尾方向に側胸壁の1/2 以上
  • 両側に肥厚がある場合 → 頭尾方向に側胸壁の1/4 以上

胸膜プラーク等との鑑別のため、胸部CT 画像所見も併せて評価されていることが必要です。

ただし、胸水貯留のため胸部単純エックス線画像上に胸膜のみの肥厚を評価できない場合は、胸部CT画像上から、以下の(a)~(c)全てが確認できることにより、被包化胸水の所見が確認できるものとし、2. を満たすと判断します。

  • (a) 胸水の不均一性
  • (b) 胸水貯留部のCrow’sfeetsign又は円形無気肺
  • (c) 胸水中のエアー又は胸郭容量の低下
    (c)については、「胸郭容量の低下」のみ認められる場合にあっては、概ね3か月以上の間隔で撮影された2つの胸部C T 画像から胸水の量が増加していないと判断できる必要があります。

3. 著しい呼吸機能障害があること

4. 他疾患との鑑別ができること

※ 著しい呼吸機能障害の判定基準

呼吸機能検査の結果、以下の(ア)から(ウ)のいずれかの場合に、著しい呼吸機能障害があると判定する。(肺活量の正常予測値は、2001年に日本呼吸器学会が提案したものを使用)

  • (ア) パーセント肺活量(%VC)が60%未満であること
  • (イ) パーセント肺活量(%VC)が60%以上80%未満であって、1秒率が70%未満であり、かつ、%1秒量 が50%未満であること
  • (ウ) パーセント肺活量(%VC)が60%以上80%未満であって、動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下であること、又は、肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)の著しい開大が見られること

特別遺族給付金

特別遺族給付金は、労災補償のうち遺族補償給付を受ける権利が「時効」によって消滅している遺族の方に支給されます。
労災保険の遺族補償給付は、死後5年が経過すると請求権が消滅してしまいます。一方、アスベストによる疾患は潜伏期間が長いため、病気の原因がアスベストであると気がつきにくいという問題があり、多くの被害者が労災補償を受けられないまま亡くなり、しかもそれが時効になるという状況が起こっています。こうした状況を受けて、遺族を救済するために、この給付金制度が設けられました。
この給付金制度の認定基準は労災と同じです。対象となる方は、2016年3月26日までに亡くなった労働者のご遺族で、遺族補償が時効になっている方となっており、請求期限は2022年3月27日までとなっています。

石綿健康被害救済法の問題点

石綿救済法が、患者や家族の必死の訴えによって作られてから10年以上が経ちました。「すきまのない救済」を掲げて作られた同法ですが、この間、患者や家族、遺族の実態からかい離した多くの問題が明らかになり、多くの患者・家族から制度の抜本的な見直しを国に求める声が寄せられています。
例えば、療養手当が少額であり生活保障の観点がない点や、アスベスト被害で肉親を奪われた遺族に対して、一時金の支給しかなく遺族年金がない点など、様々な問題があります。同じアスベストで被害を受けながら、労災補償と石綿救済法では、不当な格差があるのが現状です。

労災における平均受給金額は約7000万円となっています。救済法において平均受給金額は公表されていませんが、仮に患者が死亡している状態で遺族が救済給付の申請をした場合には、約300万円の支給以外に何もありません。給付内容の厚みに論理的に関係している、国や企業の責任の位置づけについても、救済法では法律上においてそれらの責任は一切位置づけられていません。労災では事業主の過失を問うことはせず、被災者への「賠償」 を保険制度として運用していますが、救済法は「加害と被害の因果関係」やその延長線上にある「民事責任」(あるいは、国家賠償責任)を前提とせずに、あくまで「救済」を図るものです 。

そして、給付をするための財源である石綿健康被害救済基金と労災における徴収対象に違いがあります。労災では、保険制度として全ての事業主から財源となる保険料を徴収していますが、救済法は国、地方公共団体、事業主(労災加入事業者、特別事業主(石綿との「関係が深い」とされる四事業者)から財源を徴収しています。その趣旨は、「個別的な因果関係を明確にすることができないという石綿による健康被害の特殊性にかんがみ」て、「それぞれが全体で費用負担」をして迅速な救済を図ることを趣旨としていることに由来していますが、「同じアスベスト被害であるのに、給付に大きな格差が生じるのはおかしい」との意見は法律施行当時から根強くあります。

費用負担を部分的に担っている経済界からは費用負担の国との割合についての指摘がなされることがあります。2013年10月下旬、環境省は「石綿による健康被害の救済に関する法律第 37 条第 1 項の一般搬出金率の改訂案」をホームページ上で示し、一切の議論なしにパブリックコメントを開始しました。しかし2013年12月25日には大阪高等裁判所で大阪・泉南地域の 石綿紡織工場における被害の責任を認定する判決が出され、国の損害賠償における責任割合が2分の1であるとの判断が示されました。救済法における給付の水準や費用負担に関する議論は続いています。

2018年3月には、「石綿健康被害救済制度被認定者の介護等の実態調査結果」が公表されるなど、給付内容に係る議論が盛んにされています。

また近年、本来は労災補償を受けるべき人が、石綿救済法の救済給付の対象に入ってしまう「紛れ込み」の問題も起こっています。中皮腫の場合、その原因の80%は仕事でアスベストにばく露したこと(職業ばく露)であるというのが専門家の国際的なコンセンサスです。一方、日本国内で補償・救済を受けた方を見ると、労災補償と石綿救済法の対象者がほぼ50%ずつとなっており、労災補償を受けた方の割合が低すぎます。労災として認定されるべき人が、その補償から漏れているという状況が生まれています。

ある救済法受給者たちの実態

中皮腫発病直前に自宅購入の頭金に財産の多くを投入し、発病後は仕事ができずに収入が途絶え、同居する家族も他の病気を抱えるなどして収入が得られず、複数のクレジットカード会社からの借金や兄弟から借金をしながら生活している男性がいました。月々の家のローン返済額は約10万円でした。救済法施行前の話ですが、その方は収入が途絶えたことで、長女に高校進学を断念させ、長男は高校を中退後に大学進学を希望していても進学させられるほどの金銭的余裕はありませんでした。家計の大部分を支えていたものが、月10万円の療養費をもらっていたとしても、それを子どもの学費にまわす余裕があるとは言えません。余談ですが、男性は行政認定されたカネミ油症の被害者でした。

救済法施行前になりますが、夫を中皮腫のために42歳の若さで亡くした女性もいます。夫の死亡時、彼女には4人の子どもがいましたが、最年長の長女が高校生、最年小の次男が小学校低学年でした。幸いに民間の保険に夫が加入していたために、子どもの進学費用に補填がなされました。けれども、希望していた部活動への入部を子どもが断念したことや、学校とアルバイトの往復で思春期に同級生とほとんど遊ぶことができなかった子どもへの申し訳ない気持ちを彼女は抱え続けています。

扶養家族はいませんが、闘病を続けている男性もいます。彼は中皮腫を発症したが幸いに仕事ができる状態ですが、「治療を続けながら病気による収入減や転職による社会的信用の低下や給与の減額など、間接的なコスト負担があることを理解してほしい」と述べていました。

中皮腫で54歳の夫を亡くしたある女性は 3 人の子どもを抱えていたが、住んでいた東京の家の家賃が払えずに、実家のある大阪に引っ越しました。子どもの学費に生命保険を充てるなどしましたが、貯蓄はほとんど残りませんでした。彼女は夫を亡くしたショックでしばらく仕事ができる状態でもありませんでした。その後、徐々にではありますが、社会復帰を果たしていくことができましたが、それまでの経済的な損失は多大なものでした。

中皮腫の治療を続けるある高齢女性は、夫が他界後に中皮腫を発症し、その後、持ち家を売却し、都営住宅へ転居した。わずかな年金をもらいながら、貯蓄を切り崩して生活しています。

【注】クボタショック
2005年6月、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」による被害調査から、大手機械メーカー・クボタの旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺地域で、多くの住民にアスベスト(石綿)による深刻な健康被害が出ていることが明らかになりました。同工場では、かつて石綿を含む水道管の製造が行われており、有害な石綿の粉じんが長年にわたって周辺地域にまき散らされていました。
クボタは法的責任を認めませんでしたが、工場から1.5km圏内の被害者について救済金を支払うことで、被害者らと合意しました(ただし、被害は工場から2km圏の住民にも及んでいます)。2018年6月時点で、救済金を請求した被害者数は320人、石綿関連疾患による同工場の元従業員の死者は193人、同工場に関係する関連企業の被害者なども加えると、500名を超える被害者が出ています。

【参考資料】

環境再生保全機構 アスベスト(石綿)健康被害の救済

環境再生保全機構 ご療養中の方の申請手続き(中皮腫)

・環境再生保全機構 中皮腫・肺がんの場合

環境再生保全機構 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の場合