震災がれき回収で腹膜中皮腫発症 神戸地裁が公務災害と認定

更新日:2021年3月30日
公開日:2021年3月29日

写真:神戸市長田区

中皮腫は低濃度のアスベストばく露によって発症してしまうとされています。2021年3月26日、神戸地方裁判所は阪神淡路大震災時に明石市でがれき回収作業に従事したのち、中皮腫を発症して死亡した男性に関して、業務と発症との間の相当因果関係を認めて公務災害を認めなかった処分を取り消しました。

腹膜中皮腫発症の原因となった震災がれき回収作業

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、神戸市を中心に多くの建物が倒壊しましたが明石市でも約1万棟の建物が全壊ないしは半壊したとされています。

本件の被災者は当時、明石市の職員として市環境事業所に勤務しており、路上やごみ置き場でのがれき収集作業にあたりました。

震災と関連したアスベスト被害防止の啓発や被害者支援などにあたってきているNPO法人の「ひょうご労働安全衛生センター」の調べでは、阪神・淡路大震災の関連では元警察官のほか、解体作業に従事した4人の労働者なが中皮腫で公務災害ないしは労災認定を受けていることがわかっています。

震災がれき回収と腹膜中皮腫発症の関係を認めなかった決定と提訴

本件が裁判に至ってしまった経過には、地方公務員災害補償基金兵庫県支部が次のような理由で公務災害とは認定しなかったことが背景にありました。

  1. アスベストを含むがれきが大量廃棄されてた証拠がない。
  2. 収集車でがれきを破砕したとしても、肺胞まで到達する微細な粉じんにはならない。
  3. 同僚の職員に中皮腫の発症した事例はない。
  4. 腹膜中皮腫の潜伏期間は平均約40年であるが、被災者のばく露から発症までは期間は短い。

残念ながら被災者は審査中に他界され、棄却の決定を受けた遺族が地方公務員災害補償基金支部審査会に対して審査請求しましたが同様に棄却され、2018年1月に提訴するに至りました。

震災がれき回収と腹膜中皮腫発症の関係を認めた判決の意義

今回の判決は震災時におけるアスベスト被害の深刻さについて改めて警鐘を鳴らすものですが、判決では次のような点が整理された上で相当因果関係がありとされました。

  • 震災前後の作業において、被災者にアスベストばく露作業はないとした。
  • 被災者に胸膜プラークがないことはアスベストばく露と中皮腫の発症を否定することにはならない。
  • 腹膜中皮腫について基金側証人が主張する「高濃度ばく露原因論」に根拠はない。
  • 警察官に約1ヶ月のアスベストばく露で中皮腫に罹患し、認定された事案がある。
  • 当該事案をもとに、震災時のアスベストばく露に関する特殊性を被災者の不利に過大評価することはできない。
  • 認定基準の要件は完全には満たさないものの(ばく露期間と潜伏期間は満たしていると判断)、他の要因がないことや震災後の社会環境をなどの個別的検討を踏まえれば因果関係が認められる。

その上で、「評価を誤った、裁量権の逸脱による原処分は取り消し」という判示をしました。とりわけ、腹膜中皮腫に関して、アスベストばく露と中皮腫発症の因果関係が確立されていないかのごとく基金は主張してきていましたので、その点を司法が厳しく断じた点は画期的とも言える内容です。

阪神・淡路大震災はもちろん、東日本大震災からも10年が経過し、震災復旧作業に従事した方々の被害が今後も出てくる可能性があります。社会全体が混乱する中、最前線で業務に従事された方々が中皮腫等になってしまった場合、本件被災者とご家族のような苦労を負わせないよう関係機関が対応することを強く望みます。

参考

全国労働安全衛生センター連絡会義 阪神淡路大震災後のがれき処理作業で中皮腫発症、公務災害認定を求め行政訴訟提訴/兵庫

毎日新聞 震災がれき中皮腫死訴訟 明石市職員の公務災害認める 神戸地裁

NHK NEWS WEB 神戸地裁 震災がれき回収でアスベストによる公務災害認める

全国労働安全衛生センター連絡会義 腹膜中皮腫とアスベスト:疫学による関連性の明確化/Marty S. Kanarek, et.al., Epidemiology, 2016

この記事の執筆者

事務局 澤田慎一郎

大学在学中からアスベスト被災者・家族と交流。千葉大学人文社会科学研究科(博士前期課程、公共哲学専攻)修士課程終了。大学卒業後、労働組合においてアスベスト被害を含む労災支援活動に従事。現在、全国労働安全衛生センター事務局次長、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会全国事務局。元劇団員俳優の労災認定アスベスト肺がん逆転認定ゴム手袋タルク石綿労災バス運転手中皮腫労災の支援など弁護士等の専門家から注目される実績多数。