悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン 2020年版の公開

公開日2021年3月9日

中皮腫ガイドラインの作成・発行

特定非営利活動法人 日本肺癌学会が「肺癌診療ガイドラインー悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含むー2020年版」を発表しました(発行:金原出版株式会社)。内容については、日本肺癌学会の「悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン 2020年版」のページからも閲覧できます。

作成には、中皮腫サポートキャラバン隊から右田孝雄渡邊益孝の2名が胸膜中皮腫小委員会のメンバーとして参加しました。

中皮腫ガイドラインの趣旨

このガイドラインは、一義的には診断や治療に関しての推奨状況を明らかにして、診察や治療にあたる現場の医師・看護師等すべての医療従事者に活用されることを目的としています。

胸膜中皮腫に関しては、該当箇所がそれほど多いわけではありませんので、今後の治療選択をしていく上でも患者さんやご家族の方も一読いただき、主治医の先生とのコミュニケーションをする際にご活用いただくことも考えられます。

なお、ガイドラインでは患者向けガイドブック(「患者さんのための肺がんガイドブックー悪性胸膜中皮腫・胸腺腫含む」2019年版)も案内されておりますので、あわせてご活用ください。

中皮腫ガイドラインの記載内容

同ガイドラインは以下の項目で構成されており、クリニカルクエスチョン(Clinical Question;CQ) が記載され、それに対する推奨内容と解説が記載されています。

総論
中皮腫とアスベストばく露の関係性、中皮腫発生と遺伝的因子の関連性、中皮腫発症後の基本症状、中皮腫の組織分類、生存率などの概略

「Ⅰ. 診断」
①画像診断
画像所見での中皮腫鑑別のポイント

②確定診断
腫瘍マーカーやヒアルロン酸値の信頼性、確定診断に必要な検査

③病理診断
組織診断の有効性、方法、病理分類ごとの鑑別方法

④病期診断
CT使用時の造影剤、FDG-PET/CT、MRIなどの病期診断の有効性

「Ⅱ. 治療」
①外科治療
外科手術の有効性と対応病期、術式の有意度、肉腫型中皮腫に対する手術の有効性、手術中の温熱化学療法等の有効性

②放射線治療
中皮腫と各種放射線治療の有効性

③内科治療
胸水コントロールの胸膜癒着術の有効性、術前術後や患者自身の全身状況に応じた化学療法の有効性や優先事項

④緩和治療
疼痛緩和目的の放射線治療や症状緩和目的の胸膜癒着術の有効性

中皮腫ガイドライン2020年版の変更点

今回のガイドラインは2018年に続くものですが、記載内容に関して、加筆や修正がみられた点にいくつか触れておきます。

・中皮腫発生における遺伝的因子の関与
総論には、これまで記載がなかった遺伝的因子に関する記述が加筆されています。国際的な報告が積み上がってきているとされている内容で、現在の診療に与える影響や発症予防についての言及はありません。今後も研究報告には注目していく必要があります。

・胸膜切除/肺剝皮術(P/ D)の術後または手術非適応症例に放射線療法
放射線治療に関して、「胸膜切除/肺剝皮術(P/ D)の術後または手術非適応症例に放射線療法は勧められるか?」の設問はガイドライン2018年にもあり、「P/Dの術後または手術非適応症例に放射線療法を行うことを勧めるだけの根拠が明確ではない」とされていました。ガイドライン2020では、「P/Dの術後または手術非適応症例に放射線療法を行わないよう提案する」とされています。

・胸水コントロール
ガイドライン2020では、「胸水コントロールのためのタルクやOK432による胸膜癒着術は勧められるか?」の設問が新設され、「胸水コントロールのため胸膜癒着術を行うよう推奨する」、「胸膜癒着術に用いる薬剤としてタルク懸濁液を提案する」とされています。

胸水コントロールと薬物療法
同じく、ガイドライン2020で「胸水コントロールなどの局所療法と全身的な薬物療法のどちらを先に行うべきか?」の設問が新設され、「自覚症状を呈するような胸水貯留を伴う場合は、局所療法を先行するよう提案する」とされています。

PS 3-4に対する薬物治療
ガイドライン2018では、「PS 3-4に勧められる一次治療は何か?」との設問があり、「PS 3-4に対し化学療法を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない」とされていました。ガイドライン2020では、「PS 3-4に全身的な薬物治療は勧められるか?」との設問があり、「PS 3-4に対し薬物治療は行わないよう推奨する」とされています。
PS=パフォーマンス ステータス(全身状態)

今回のガイドラインについて呼吸器内科医(※胸膜中皮腫小委員会のメンバーではありません)が解説している動画もありますので、参考にしてください。

中皮腫ガイドライン作成過程への参加を通じて

2018年度版に続き、2020年度版ガイドラインの制作に外部委員として中皮腫サポートキャラバン隊の2人が参加させていただきました。患者の立場として、遠慮なく意見もさせていただきました。私たちも含め、委員の先生方が一人ひとりの患者の方々に、最善の治療が届けられるように議論を重ねてきました。ガイドラインも参考にしていただきながら、経験の多い医療機関や医師ともコミュニケーションを図って治療選択をしていってください。

     (共同代表 右田孝雄)

2020年版のガイドライン作成に、患者として初めて参加させていただきました。その中で、参加された医師の方々の、豊富な経験と知識、熱い想いを間近で感じることができました。2018年版から比べますと、診断や治療において、少しずつではありますが研究の成果がみられています。また、患者にとって有用な、治療などによるQOL(生活の質)への影響や安全性についても、2020年版では議論され掲載されています。患者や家族のみなさんにとって、少しでも良い治療が選択できることを願っています。                     

 (副代表 渡邊益孝)

監修者:岡部 和倫 医師
(ベルランド総合病院呼吸器腫瘍外科部長)
Q&Aを参考にされ、各分野の経験豊富な専門家にご相談されることをお勧めします。
大分医科大(現大分大医学部)卒業後、岡山大医学部附属病院を経て渡米。ハーバード大学の主要教育病院において、胸膜中皮腫外科医療の権威であるシュガーベイカー医師のもと最先端の診療を学び、約1000件の手術を経て技術習得して帰国。山口宇部医療センターなどを経て現職。Best Doctors in Japanに認定されている。特定非営利活動法人日本肺癌学会胸膜中皮腫小委員会(2020年)委員。