中皮腫とアスベスト労災補償認定【認定基準編】

公開日:2021年2月3日

このページは、

・労災制度と認定基準の関係が知りたい。

中皮腫と診断されたけれども、認定の認定基準が知りたい。

・認定基準はどのように、誰が作成しているの?

・認定基準を満たしていない場合は、労災請求を諦めないといけないの?

こんな疑問について、年間数百件の相談に応じている経験および、弁護士等の法律専門家からも関心が向けられる認定支援を重ねてきた実績・ノウハウから解説します。

中皮腫とアスベスト労災補償認定【認定基準とは】

中皮腫とアスベスト労災補償認定のページでも触れましたが、中皮腫と診断された方や遺族の方が労災認定されるためには、原則として「認定基準」を満たしている必要があります。

中皮腫と石綿労災補償認定【認定される基準】

労災保険制度に関しては、対象の疾病についてその範囲が労働基準法施行規則別表第1の2で定められいます。アスベスト疾患については、「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」、「石綿にさらされる業務による良性石綿胸水又はびまん性胸膜肥厚」などが定められています。

しかし、具体的にばく露量(吸ってしまった量)と発症との関連性について記載はありません。この点を補うために、厚生労働基準局長が行政通達として明示しているものが「認定基準」です。

中皮腫とアスベスト労災補償認定【認定基準の作られ方】

現在の中皮腫に関する認定基準が作成されたのは、2006年になります。厚労省と環境省とで合同で開催した「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」において報告書が作成されました。それを踏まえて認定基準がまとめられ、各労働基準監督署が認定の判断指標としています。

当時の認定基準は、次のような専門家によって構成されていました。

・審良 正則 独立行政法人国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター放射線科医長
・井内 康輝 広島大学医学部長 広島大学大学院医歯薬学総合研究科病理学教授
・岸本 卓巳 独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院副院長
・神山 宣彦 東洋大学経済学部経済学科自然科学研究室教授
・三浦溥太郎 社団法人地域医療振興協会横須賀市立うわまち病院副院長
・森永 謙二 独立行政法人産業医学総合研究所作業環境計測研究部部長

石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会の議事録や資料は公開されていますのでご関心のある方は確認してにてください。

2003年基準

2003年にも同一メンバーによって「石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会報告書」が取りまとめられていました。2003年当時の報告書では、次のような認定基準となっていました。下線部は現行基準から削除されています。

中皮腫の診断があり、以下のいずれかの基準を満たしていること。

・労働者として1年以上、アスベストに関わる仕事をしていたことに加えて、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)あるいは、肺組織内に石綿小体または石綿繊維が確認できること

・「石綿肺」を合併している。

中皮腫とアスベスト労災補償認定【認定基準を満たさないと認定されないのか】

「認定基準を満たさないと認定されないのか」というと、必ずしもそうではありません。最新の認定基準に関して通知された「石綿による疾病の認定基準について」では、中皮腫について次のような請求事案に対しては「本省協議」(労働基準監督署だけで判断せず、厚生労働省に相談)することが指示されています。

・ 胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜以外の中皮腫と診断されたもの。
・ 認定基準は満たしているが、最初の石綿ばく露作業を開始したときから10 年未満で発症したもの。
・認定基準を満たさないもの。

その上で、厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室が必要と認めた事案に対して「石綿に係る疾病の業務上外に関する検討会」で協議され、その結果が労働基準監督署へ報告され、労災認定の判断材料とされます。

中皮腫とアスベスト労災補償認定【認定基準を満たさずに認定された事例】

中皮腫の方で認定基準を満たしていない場合でも、これまでに労災認定された事例はあります。具体例としては以下のケースをご確認ください。

建設業:とび工のケース

上記以外にも、これまでの労災認定の実績として数週間や数ヶ月の石綿ばく露で認定されている事案もあります。石綿吹付作業や石綿紡織業、水道管製造業などの業種や職種で左右される面もありますが、中皮腫の発症に石綿ばく露の「しきい値」(この程度までしか吸っていなければ安全とされる指標)が存在しませんので、その認識を前提に請求を検討する視点が大切です。

中皮腫とアスベスト労災補償認定【認定基準を満たさなくてもあきらめない!】

司法では、現行の認定基準は否定されています。詳しい解説は以下の記事をお読みください。

アスベストばく露による中皮腫の労災裁判(行政訴訟)

簡単に言えば、現在の中皮腫の認定基準について裁判所は、「根拠が何もないではないか。海外の基準ともかけはなれている。認定基準を作るとしても、もっと基準を緩和しなさい」と判決の中で言っています。

とにかく中皮腫の方は認定基準を満たしていなくても、石綿ばく露の可能性について検討して労災請求していただくことをお勧めします。

【参考】

厚生労働省 石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会報告書

厚生労働省 労働基準法施行規則別表第1の2が改正されました

厚生労働省 石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会

厚生労働省 石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会
報告書

厚生労働省 石綿による疾病の認定基準について

厚生労働省 石綿に係る疾病の業務上外に関する検討会

この記事の執筆者

事務局 澤田慎一郎

大学在学中からアスベスト被災者・家族と交流。千葉大学人文社会科学研究科(博士前期課程、公共哲学専攻)修士課程終了。大学卒業後、労働組合においてアスベスト被害を含む労災。現在、全国労働安全衛生センター事務局次長、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会全国事務局。元劇団員俳優の労災認定アスベスト肺がん逆転認定ゴム手袋タルク石綿労災バス運転手中皮腫労災の支援など多数。