労災保険制度

はじめに

労災保険制度は使用者の無過失賠償責任に基づき、労働基準法に定める労働者(労働者以外の任意加入制度である特別加入制度を含む)を対象とした、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため」の制度です。

中皮腫は、アスベスト(石綿)を吸い込むことで発症する代表的な病気です。労災保険制度では胸膜・腹膜中皮腫をはじめ、石綿肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水などがアスベストによる対象疾病となっています。石綿ばく露作業に従事していたことが原因で発病または死亡したと認められた場合、業務上疾病として認定され、労災保険の各種給付ないしは労災時効の遺族を対象とした特別遺族給付金が支給されます。

中皮腫をはじめとするアスベスト疾患にり患した方やその家族は、労働者災害補償保険法(労災保険制度)や石綿健康被害救済法(石綿救済制度)など、いずれかの制度から必ず給付を受けることができます。これらの法律・制度は、健康被害を受けた患者と家族の長年にわたる闘いによって勝ち取られてきたものです。これまでに労災制度と救済制度をあわせると、1995年以降、約2万人以上の人々が認定されています。

アスベスト(石綿)の原石

「中皮腫以外の疾病」については下記の事項についてご留意ください。

・肺がん

アスベストが原因の肺がんは、中皮腫の2倍にあたる被害者がいるとされています。近年の国際的な動向では、4~6倍ほどになるという調査結果も出されています。一方で、中皮腫の死亡者数をもとに被害者数を推計した場合、2割程度の被害者しか公的な補償を受けられていません。医療関係者の認識不足や安易に「タバコが原因」とされてしまいがちです。肺がんの労災認定には、「喫煙の有無」は関係がありません。今年は医学的資料がない平成元年や平成4年の死亡者で、労災時効救済による認定もありました。近年、患者や遺族が労災認定を求めて起こした多数の行政裁判で、国側が敗訴し労災と認められるケースが相次いでいます。私たち患者と家族の会では、国に対して、判決で示された内容に沿って認定基準を改正するよう強く求めています。

・石綿肺(アスベスト肺)

粉じんに長期間ばく露すると、肺に線維性の病変が起こり、呼吸困難などの症状が起こります。これを「じん肺」と言いますが、アスベストの粉じんを原因とするものについて、「石綿肺」と言います。この石綿肺は、しばしば肺気腫や間質性肺炎、肺線維症、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などと診断され、見逃されているケースがあります。画像診断だけでは鑑別の難しいものもあり、職歴による石綿ばく露情報が診断の大切な指標となります。じん肺は、まず労働局に、「じん肺管理区分申請」をして管理区分決定される必要があります。決定の内容と続発性気管支炎等の合併症の有無などを考慮して労災請求が検討できます。

・良性石綿胸水(石綿胸膜炎)、びまん性胸膜肥厚

良性石綿胸水は、アスベストのばく露により胸膜炎が起こり、胸腔に水がたまった状態を言います。場合によっては、胸水によって呼吸機能が低下します。診断が難しい疾病のため、労災の認定基準は設定されておらず、個別のケースごとに判断されます。びまん性胸膜肥厚は、肺側と胸壁側の胸膜が癒着して厚くなっている状態を指し、癒着が広範囲で起こるため、呼吸困難を引き起こします。

労災制度では、治療費無料の療養補償給付、平均賃金の80%の休業補償給付、通院交通費の支給、遺族補償給付、葬祭料などが支給されます。石綿救済制度よりも充実した内容となっています。

働いていた事業所がすでに廃業していたり、その事業場が労災保険に入っていなかった場合にも、あるいは原因が複数の事業所にまたがっている場合でも労災保険の対象になります。発病時に退職していた場合でも労災保険の対象となります。最後にアスベストを吸ったと考えられる会社(事業所)が残っている場合には、労災請求にあたって「事業主証明」を依頼することになりますが、会社から協力を拒否されても請求ができないわけではありません。

特にご注意頂きたいのは、建設業関係者の方の中には、「一人親方」や「自営業」であるので労災の対象にはならないと思われている方が多くいます。若い頃に誰か(どこか)に雇われて日給月給などで仕事をしていれば、その期間は労災の対象になる可能性があります。また、「一人親方」や「自営業」と思っていても、実態は特定の親方などから日当をもらって仕事をしている「労働者」と考えられる方もいます。中皮腫をはじめとするアスベスト疾患を発症された方は、安易に労災請求を断念せず、必ずお問い合わせください。労働基準監督署や環境再生保全機構の不十分な説明によって、労災請求をあきらめておられる方が現在も少なくありません。

私たちに寄せられてくる相談には次のようなものがあります。

「病院や役所で相談しても、よくわからない」

「石綿を扱ったのがあまりに昔のことなので、なにをどう調べていいのか途方にくれている」

「労災申請したけれども、十分な調査がされず不支給処分を受けてしまった」

「建設業で働いていて肺がんになったため申請をしようとしたが、医者に石綿とは関係ないと言われた」

「同じ病気で治療している人の話をきいてみたい」

「夫が中皮腫の苦しさから自殺を図ってしまった。どうしたらいいかわからない」

「被害の原因をつくった企業を訴えることはできないか」

「仕事でなったのに、労災が適用できないと言われている」

「環境再生保全機構によって、石綿健康被害救済法でとりあえず認定されたが、原因をもっと明確にしたいし、できるなら労災補償を受けたい」

などなど・・・・

下の図は、中皮腫でお亡くなりになった方の年別の補償・救済状況を示したものです。中皮腫になられた方は、必ず何らかの給付が受けられるのですが、おおよそ3割程度の方が何の給付も受けていない(グラフの白の部分)という現状があります。石綿疾患に関係する労災等の諸制度は、実質的に時効がなくなっていますので、ご遺族の方であっても請求が可能です(特別遺族給付金)。

『安全センター情報』2019年1・2月号より

労災補償の内容

療養補償給付では、労災病院や労災指定医療機関において、原則として無料で治療を受けることができます。また、通院費も支給されます。通院費の支給は原則として最寄りの医療機関への通院が対象となりますが、中皮腫の治療については、この病気の特殊性から、遠距離にある専門医への通院費も支給されます。これは2005年に、当時の尾辻秀久厚生労働大臣と中皮腫患者との面談によって、現在の弾力的な運用につながっているものです。

例えば、「【とにかくタクシーも新幹線も飛行機、ホテルも「領収書」はとっておいてください】労災での中皮腫患者さんの遠方への移送費(交通費)の支給」の事例紹介のように、北海道の中皮腫患者さんが山口県の病院を受診した場合も、関連の交通費・宿泊費が支給されています。ただし、あくまでも個別判断ですので、支給の根拠となる意見書などをあわせて提出しておくことを強くお勧めします。いつでもご支援しますので、ぜひお問い合わせください。

次に休業補償給付では、中皮腫のため働くことができない場合に、アスベストにばく露した職場で受け取っていた平均賃金の約80%が療養中ずっと支給されます。また、ご遺族(配偶者や一定年齢までの子ども)には、生前の賃金から算定された年金が、遺族補償年金として支給されます(遺族補償給付)。この他、葬祭料も支給されますし、在学中のお子さんがいる場合には就学等援護費が支給されます。

下記の表は、環境省が2010年7月28日に中央環境審議会環境保険部会石綿健康被害救済小委員会の資料として公表したものです。交通費や就学援護金に関しての記載がありませんが、労災制度と石綿救済制度の給付の違いについてのイメージを掴んでいただくことができるかと思います。

労災制度等の給付内容・水準

「労災制度等と救済制度等の給付内容・水準の比較」 出典:https://www.env.go.jp/council/05hoken/y058-08/mat05.pdf

中皮腫に罹患した方は必ず労災保険請求の検討を

中皮腫を発症され、過去にアスベストの粉じんにばく露する職場(現場)で働いていた方の場合、アスベストが原因の労働災害の可能性が高いですので、まず労災保険への請求を考えてみて下さい。これまでの認定事例などは、「労災保険の認定事例等」をご確認ください。石綿関連疾患の国際的な診断基準を示した、ヘルシンキクライテリア「コンセンサスリポート」(1997)では、「約 80%の中皮腫患者には、何らかの石綿への職業的なばく露があった」と教示しています。

(社)日本石綿協会が示しているように、日本には約1,000万トンの石綿が輸入されています(「日本におけるアスベスト輸入量」)。下の図は環境省が石綿の輸入量から今後の被害者数を推計したものになります。これによれば、2030年頃まで中皮腫患者は増えると予測されています。

環境省作成:石綿輸入量に基づく中皮腫患者数の推計(情報公開請求により取得)

アスベストは主に、①建築関連(大工、左官工、電気工、配管工など)の職種ほぼすべて、②アスベストを含む製品(建材、ブレーキライニングなど)の製造、③自動車、鉄道、船舶の製造や修理、④鉄工、ガラス製造、⑤アスベスト原料の運搬や荷揚げ(運輸業、港湾関係など)といった職種の場合、アスベストそのものやアスベストが含まれる建材・製品を直接加工したり、アスベストの粉じんが出る環境の中で働き、アスベストの粉じんにばく露している可能性があります。

また、アスベストを含む滑石(タルク)を使用していた看護師や美容師の方で発病したケースや、学校の体育館の天井に石綿が吹付けられていた場合もあったことや、一昔前の理科の授業などで石綿金網が使用されていたことなどから、教員の被害なども確認されています。

厚生労働省がHPで、『「石綿にさらされる作業に従事していたのでは?」と心配されている方へ』と題して、石綿にさらされるおそれがある作業例について、写真入りで解説しています。また、アスベスト被害で労災認定が出ている事業場を検索できるサイトもありますので、ぜひ参考にしてください。

中皮腫の労災認定基準

中皮腫であるという確定診断と、アスベストにばく露する作業に従事していた期間(アスベストばく露作業従事歴)が1年以上あれば、労災として認定されます。アスベストの吹き付け作業や解体作業など、高濃度のアスベストにばく露したケースでは、1年に満たない従事期間でも労災として認定される可能性があります。事務職のような場合でも、飛散しやすい吹き付けアスベストがあった建物内で働いていてばく露し、労災として認定されたケースが複数あります。

中皮腫の労災認定基準(厚生労働省HPから)

また、中皮腫患者さんの中には、本人もあまり石綿ばく露を自覚しておられない方もいます。代表的には造船所が非常に多くの間接ばく露のある職場であることは、これまでの労災認定事例や裁判などを通じて明らかにされています。『アスベスト読本―造船の街からの警鐘』には英国の造船所におけるアスベスト濃度測定データの報告を図式化したものが紹介されています。この中では、吹付け作業の遠く離れた場所においても、階層を重ねて飛散をしている実態が科学的に明瞭であることがわかります。

平成18年10月に厚生労働省設置の「石綿に関する健康管理等専門家会議マニュアル作成部会」が取りまとめた、「石綿ばく露歴把握のための手引〜石綿ばく露歴調査票を使用するに当たって〜」の中では、「フィンランドにおいて石綿鉱山に源をもつ石綿繊維が27km飛行したことが記録されていますし、アメリカでは、太さ0.1ミクロン・長さ10ミクロンおよび、太さ1ミクロン・長さ50ミクロンの石綿繊維が、毎分ほぼ4.5メートルの風にのって、それぞれ1120キロ及び13.3キロ移動した事が報告されて」(p.4-5)いる、との海外文献に基づいた記載があります。

さらに、「石綿繊維は数ミクロン単位という微細な繊維であり、1本1本は肉眼で捉えることができないため、石綿が空気中で著しい高濃度に達しても肉眼的には『きれいな』空気です」(p.5)とあります。吹付け石綿除去工事後の再飛散の再現実験のデータも紹介され、「肉眼的には空気は全く実験前と変わらずキラキラもせず、そのことに驚かせた」(p.5)との再現実験参加者の見解も示され、「石綿工場で働く労働者や吹きつけ石綿に関する作業を行う労働者が気づかずに高濃度ばく露をうけることが理解できる光景です」(p.5)とあります。

石綿が吹付けられた環境内でのばく露によって、これまでの多くの労災認定事例から言っても、吹付け作業が終ったあとの同一、周辺空間のばく露が看過できないことは明らかです(参考:建物アスベスト被害WEBサイト)。

石綿ばく露と中皮腫発症に関する閾値が確立していないことは、厚労省設置の「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」による、平成18年2月の「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する」報告書で、中皮腫は「石綿の低濃度ばく露によっても発症する」(p.9)との見解からも確認できます。

2018年には名古屋高裁で、中皮腫で死亡した男性の遺族が労災不支給の処分取り消しを求めた裁判で、裁判所は業務上災害との判断をすると同時に、次のような判示をしています。

・わが国における中皮腫の労災認定において、本認定基準が、厚生労働省本省との協議とするか否かを区切る基準として、「石綿ばく露期間1年以上」を設定したことは、十分な医学的根拠に基づくものということはできず、ばく露期間1年未満の中皮腫を一律に本省との協議とすることに合理性は認められない。

・わが国の中皮腫の労災認定基準において、仮に、厚生労働省との協議とするか否かを区切る基準としてばく露期間の要件を設定する必要があるとしても、それはせいぜい2、3か月程度を限度とするべきであると考えられるし、設定されたばく露期間の要件を満たさないものについても、就労場所におけるばく露状況等を検討することによって、中皮腫の発症に業務起因性を肯定すべきものが存在するというべきである。

阪神・淡路大震災では「1ヶ月の石綿ばく露」で認定も

阪神淡路大震災に関連しては、これまでに少なくとも5人が労災や公務災害で認定されています。このうち、一人の被害については元警察官でしたが、震災直後の1ヶ月に神戸市長田区での救護・警戒活動に従事した際に被災地で飛散していた石綿にばく露したとして公務災害認定されています。

労災補償の手続き

労災保険の申請については、請求書を労働基準監督署に提出し(療養補償については、医療機関を通じて労基署に提出)、それを基に労働基準監督署が調査を行って支給するかどうかが決められます。請求書は最寄りの労働基準監督署でもらうことも、厚生労働省のHPからダウンロードすることも可能です。

ただし、次の2つの点については十分に注意してください。

①労働基準監督署の「請求拒否」

「請求拒否」いうのは、形式的にないとされていますが、事実上、そのような扱いをされている、結果的にそのような形になったという事例は近年でも出ています。患者さんやご家族の立場から言えば、「請求断念」となります。2017年に北海道労働局管内の某労働基準監督署でそのような事例が発生し、結果的に労災認定されたのち、当該労働基準監督署が遺族に謝罪するといったこともありました。断念をしたことで、一部の請求権が時効となってしまい、「受けられるはずだった給付」の受給権が消滅してしまう方もおられます。いかに労働基準監督署の対応に不備があったとしても、過去に遡って請求権を復活させるようなことはできません。

労災請求には、請求を受け付けるしきたりや手順があり、そこから外れるものは請求に行っても難色を示されます。例えば、「主治医の証明」や「事業主の証明」などが無いと、それらをもらってからまた来てくださいと言われる場合があります。しかし、患者様の中には、必ずしも時間的余裕の無い方がいることも事実ですので、一部の形式を省いて調査を進めることが大切になる場合もあります。私たちがサポートに入り、事情を説明すれば労働基準監督署は極めて迅速な対応をしてくれます。

②救済制度への紛れ込み

「救済制度でもう十分だと思っていました」、「キャラバン隊の皆さんから説明をもっと早く聞いておけばよかったです」というご意見を頂戴することがあります。先に示した、中皮腫に罹患した方のグラフを確認して頂ければ、労災認定者と救済制度の認定者の割合が同程度になっていることがわかるかと思います。また、繰り返しになりますが、石綿関連疾患の国際的な診断基準を示した、ヘルシンキクライテリア「コンセンサスリポート」(1997)では、「約80%の中皮腫患者には、何らかの石綿への職業的なばく露があった」と教示しています。したがって、労災認定8に対して、救済制度2の割合になることが本来的な形です。

労災の給付と救済制度の給付内容には明らかな格差があり、まずは労災請求を模索するのが基本です。すでに不認定になっている場合でも、労働基準監督署の決定に誤りがあれば、新たに処分をして認定になる事例もあります。上述したように労働基準監督署に、難しいと言われて請求を諦めた方々に対して私たちのサポートによって認定につながった方々も数多くいます。

すでに触れたように、救済制度と労災制度の給付内容は全く違います。必ず、労災請求を検討してください

地方公務員災害補償法施行前の石綿ばく露は労災請求可能

地方公務員災害補償法が施行されたのは1967年12月ですが、それ以前に公務員として石綿ばく露をして中皮腫等の石綿疾患を発症した方もおられます。2019年2月には、1960年から63年にかけて大阪府で水道関連業務に従事して、2013年に胸膜中皮腫を発症して死亡した男性について労災認定された事案がありました。労働基準監督署は、「当時使用されていた水道管が石綿含有であったことなどを考慮すれば、暴露する機会があったと判断するほうが自然」と判断しました。公務災害にあたる方が、法施行前であれば労災請求が可能であり、認定される可能性があります。

時効にはご注意を

給付ごとに請求の時効があります。休業補償給付、通院交通費(移送費)はその請求事由が発生した時点から2年で時効となります。労災認定された時点からではありません。つまり、中皮腫や石綿肺がんなどの場合、胸の痛みや咳など自覚症状があり近所の呼吸器内科などを受診して、胸水などが確認されて「疾患の疑い」が生じた段階から起算点となります。休業補償給付は一日単位での請求、通院交通費(移送費)は病院への通院ごとに請求となります。

労災請求は種別ごとの請求となります。したがって、療養補償給付を労災請求して業務上認定(労災認定)された場合でも、休業補償給付などを請求せずに起算点から2年を経過すると時効となってしまいます。

例えば、2019年2月1日に、調子が悪く近所の呼吸器内科を受診し、CT画像などで異常を指摘されて中皮腫の経験が豊富な別の病院を紹介されて3日後の2月4日に受診して、のちに中皮腫の診断が確定した場合は下記のような請求期限となります。

2021年1月31日までが、2019日2月1日分の休業補償と通院交通費の請求期限

2021年2月1日までが、2019年2月2日分の休業補償の請求期限

2021年2月3日までが、2019年2月4日の休業補償と通院交通費の請求期限

ご遺族の方へ

中皮腫と診断され、多くの患者さんやご家族の方々は目の前の治療・療養の最善を模索されます。そのため、労災請求の手続きをせずにご遺族になられて、5年の時効を迎えてしまう方もおられます。そのようなご遺族様には、石綿健康被害救済法に基づく、特別遺族給付金の制度があります。この制度は、現状、時効がありません。例えば、患者さんが何十年も前にご他界された場合でも、死亡届(原則として、法務局で27年間は保存)などから「中皮腫」の病名が確認されれば、認定につながる可能性があります。認定された場合、「特別遺族年金」ないしは「特別遺族一時金」が支給されます。

本土復帰前の沖縄米軍基地における石綿ばく露で病気を発症した方の遺族

沖縄県が本土復帰前に米軍関係労働者が石綿ばく露をして病気を発症して死亡するケースもあります。日本とアメリカの間では協定によって、復帰前の石綿ばく露による被害は労災保険給付の請求権がないとされています。このような形で被害を受けた遺族は、「布令42号」による補償を受けることができますが、中には請求権が「時効」となってしまっている方もいます。厚生労働省は2011年に通達「沖縄復帰前に労働者災害補償の適用を受けていた米軍関係労働者に係る石綿による健康被害の救済に関する法律の適用について」を発出しました。これにより、時効となった遺族については石綿健康被害救済法に基づく「特別遺族給付金」の対象となりました。

不認定や認定内容に疑問・不服がある方へ

労災が認められなかった場合や、労災認定はされた場合でも給付の基礎となる「平均賃金」の金額が誤っていることがあります。このような決定をされた場合でも、請求された方には「二度の異議申し立ての権利」があります。「審査請求」と「再審査請求」です。

「審査請求」は、決定に不服がある場合に、「その決定があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内」に、決定をした労働基準監督署を管轄する都道府県労働局に置かれている労働者災害補償保険審査官(以下、審査官)に申し立てをするものです。審査官に、必要事項を記入した「労災保険審査請求書」を提出します。提出後、「口頭意見陳述」の実施を審査官に求めます。口頭意見陳述は、審査官に対して口頭で意見を述べることができ、原処分庁に対しても原処分の決定内容や認識等について質問できる機会となります。通常、1回かぎり、1時間程度の時間が確保されていますが、過去には北海道において2時間以上かけて審理をしたこともありますし、原処分庁が不誠実な対応に終始したために審理を再設定した事案もありました。「行政不服審査法 審査請求事務取扱マニュアル(審査庁・審理員編)」には、「処分庁等に対する質問に対しては、法律上、処分庁等の回答義務についての明示的な規定はないが、処分庁等は審理において協力すべき責務を有しており(法28条)、申立人の質問権が規定された趣旨に鑑みれば、処分庁等が質問に対して適切に回答すべきことは当然であり、処分庁等の回答は、原則として口頭意見陳述の場で行われるべきである」(p.68)と記されています。この記載に反するような不誠実な対応を原処分庁がした場合は、この点を審理員である審査官に指摘しましょう。

「再審査請求」は、審査請求でも申し立てが認められなかった場合に、「審査官から決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2ヶ月以内」に、労働保険審査会に申し立てをするものです。同審査会に、「労働保険再審査請求書」を提出します。再審査請求は申し立て後、約半年後に「事件プリント」と言われる、労災請求や審査請求にあたって請求人が提出した書類や原処分庁が作成した書類、審査官が収集した書類などが集約された書類が届きます。あわせて、一方的に審理期日が指定されます。欠席の場合でも、不利になることはないとされていますが、口頭で審査にあたる合議体(3名の委員で構成)に意見を述べることができ、使用者側と労働者側の参与を含めて質疑を受ける機会ともなります。

審査請求・再審査請求はいずれも、申し立てが認められるためのハードルは決して低くはありません。過去には、国会において「毎月95万円もらっている委員が95%棄却している、こんなふうに言われたということがあるそうです」(平成26年5月15日、第186回国会衆議院総務委員会)と指摘されることもある程です。しかし、これら申し立てで決定が覆った事案も少なからずあり、その決定がその後の被害にあわれた方々の労災請求や給付支給に大きな影響を与えたこともあります。

労災認定された方は企業補償や国家賠償の検討を

労災制度は「無過失責任」に基づく制度ですので、使用者(会社・企業)の過失の有無とは無関係に、一定範囲の損害に対して給付が補填されます。しかし、治療費・休業損害・逸失利益・慰謝料の全てが補填されるわけではありません。労災認定された方の中には、会社が存続している場合には会社に対して、会社が廃業している場合でも一定の条件にある方は国に対して賠償を求めることが可能です。

詳細は、「中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚などのアスベスト(石綿)疾患の救済・労災・補償・損害賠償(和解)での給付金」をご確認ください。

【参考資料】
厚生労働省 労働災害が発生したとき
厚生労働省 「石綿にさらされる作業に従事していたのでは?」と心配されている方へ
石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧(全国労働安全衛生センター/中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会)

・神戸新聞(2020年1月10日)「阪神・淡路被災地 見回りの元警察官死亡は『公務災害』 石綿禍 活動1カ月で認定」

・毎日新聞(2020年1月12日)「石綿 公務員を労災認定 『補償法』施行前の被害救済 大阪・中皮腫死亡」