中皮腫の治療(手術・抗がん剤・放射線・免疫療法・緩和医療)

更新日 : 2020年4月15日

公開日:2019年1月1日

本ページを含め、当サイトは個人・団体からの寄付運営しています。医療機関や政治団体、行政機関等からの資金的支援はなく、そのような支援を背景とした記事は作成していません。

中皮腫の治療についての情報

中皮腫は病期(がんの進行)、患者さんの年齢・持病の有無などを含む体力、他の病気の治療状況によって治療内容が異なります。

I期およびII期の場合には手術が行われることがあります。しかし、このような大きな手術でも、完全にとりきれないこともあり、胸膜のなるべく広い範囲を切除して胸水の貯留を防ぐような対症的な手術が放射線療法や化学療法と併用して行われることもあります。

III期以上の病期で、手術によってすべての病変をとりきることが困難な場合には、放射線療法や化学療法が行われます。がんが広範囲に進展し切除が困難な場合には、患者さんの希望や全身状態により抗がん剤による化学療法を行うか、症状を緩和する対症療法(緩和ケア)を行うこともあります。

腹膜・心膜・精巣鞘膜については、手術以外については胸膜中皮腫に準拠した形での治療となります。

なお、特定非営利法人 日本肺癌学会から肺癌診療ガイドライン(肺癌診療ガイドライン2018年度版-悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む –)が出ていますのでご参考にしてください。

【参考文献】

>国立がん研究センター がん情報サービス-中皮腫 基礎知識-

>国立がん研究センター 希少がんセンター -悪性胸膜中皮腫-

>がん情報サイト Cancer Information Japan -悪性中皮腫の治療(PDQ®)-

中皮腫の手術

手術に大きく分けて、2つの術式があります。

①胸膜肺全摘術(EPP)

肺、胸膜や場合によっては横隔膜や心膜ごと切除し、人口の膜で横隔膜や心膜を再建する術式です。術後の放射線治療の実施が可能です。

胸膜外肺全摘術(EPP)

出典:「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブックより

②胸膜切除/肺剥皮術(P/D)

壁側胸膜および臓側胸膜を切除し、横隔膜や心膜の肺を温存する術式です。全身状態や心肺機能が低下している方にも実施できますが、肺への影響を考慮して術後の放射線治療はできません(国外での報告例はありますが、慎重な意見が強くあります)。

EPPとP /Dの差異

両術式は2008年に生存率に差が無かったとの論文が発表されていますが、手術自体を行っている医療機関が少ないために、主治医、がん相談支援センター、患者会などに相談したうえで治療実績がある医療機関にセカンドオピニオンを行うことも今後の治療方針を決めるための重要な手段の一つです。

山口宇部医療センターでの悪性胸膜中皮腫に対する最新(2019年2月)の治療成績では、上皮型悪性胸膜中皮腫に対する胸膜外肺全摘術(EPP)を含む集学的治療において治療開始後5年生存率が43%、生存期間中央値が59カ月という報告も出されています。

ただし、いずれの術式も「完全切除」や「治癒切除」と言われる、切断面を顕微鏡で確認しても腫瘍が取りきれたと言える状態にすることは不可能で、目的は「肉眼的完全切除」にあります。手術単独での治療は推奨されておらず、集学的治療(外科療法・化学療法・放射線療法・免疫療法等の組み合わせによる高い治療効果を目指す治療法)の一部として位置付けられています。腫瘍の減量効果については、胸膜外肺全摘術(EPP)が高いとされています。

別途、症状緩和を目的に「胸膜癒着術」がなされる場合もあり、「ガイドライン」では「胸水制御と胸水貯留による症状の軽減を目的とした緩和療法として、薬剤による胸膜癒着術を行うよう提案する」とされています。癒着術では、ドレーンにより胸水を排出したのち、胸水によって圧迫されていた肺が膨らんだのち、肺と胸膜のあいだに薬(癒着剤)を投入して癒着させる方法です。

手術適応:推奨

臨床病期Ⅰ-Ⅲ期の選択された一部の患者に対して手術を行うことを考慮してもよい。(グレードC1)

手術適応判定は呼吸器外科医を含む集学的治療チームにより判定することが勧められる。(グレードA)

a.手術の利益:切除可能中皮腫において外科的切除が生存率を改善するか否かは明らかでない。

b.手術の目的:手術の目的は肉眼的完全切除である。

c.集学的治療:集学的治療により許容し得る周術期リスクと遠隔予後が得られる可能性がある。

腹膜中皮腫の手術

腹膜中皮腫では、手術による治療効果は限定的とされる意見がある一方で、手術実績を公表している医療機関もあります。また、「講演動画『腹膜中皮腫闘病15年 南の島・沖縄から 絶望から希望へ』(鹿川真弓さん)」などの体験記も参考にしてください。

【参考文献】

>兵庫医科大学病院 呼吸器外科

>国立がん研究センター がん情報サービス -中皮腫 治療の選択-

日本肺癌学会 悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン -外科治療-

>石綿・中皮腫研究会ほか編(2018)『中皮腫瘍取扱い規約』金原出版

「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブック

中皮腫の抗がん剤療法

抗がん剤療法とは薬剤を用いてがん細胞を殺すかまたは細胞分裂を停止させることでがん細胞の増殖を停止させるがん治療のことです。また、再発や転移を防ぐ目的もあります。中皮腫に対する化学療法の中心的薬剤(抗がん剤)は、ペメトレキセド(商品名:アリムタ)で、この薬にシスプラチンを組み合わせた併用治療(シスプラチン+ペメトレキセド)が唯一の標準的一次化学療法として用いられます。シスプラチンのみの投与よりも治療成績が良好であるとのデータに基づいています。

抗がん剤の副作用

ただ副作用として心臓への影響として動悸や不整脈、また肝臓や腎臓に障害が出ることもあります。副作用が著しい場合には治療薬の変更や治療の休止、中断などを検討することもあります。

しかし、かつては苦しい治療であった化学療法も今は支持療法の進歩により副作用がかなり軽減され、外来通院での化学療法へスムースに移行できるようになっています。

また、白金製剤であるシスプラチンの仲間である「カルボプラチン」(商品名:パラプラチン)は、シスプラチンの副作用である吐き気や腎臓への障害、神経への障害が軽減され、水分の点滴量(シスプラチンでは腎臓へのダメージを軽減するために点滴前後に1リットルから2リットルの輸液による点滴をして、尿量を増加させることによって洗い流します)も抑えることができます。(シスプラチン+ペメトレキセド)に対して、(カルボプラチン+ペメトレキセド)の併用も同等の治療成績が得られているとされています。

維持療法としての単剤投与

維持療法として、上記の一次治療有効例に対してのアリムタ単剤投与の有効性が示唆される報告もありますが、前述の「ガイドライン」では「維持療法を行うよう勧めるだけの根拠が明確でない」とされています。

75歳以上の抗がん剤使用

同ガイドラインでは、75歳以上の方であって米国の腫瘍学団体(ECOG)が示す全体状態の指標であるPerformance Statusが0~2であれば、化学療法をおこなうことが「弱く推奨」されています。

【Performance Statusの定義】

0 全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活ができる。

1 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業

2 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。

3 限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。

4 全く動けない。自分の身の回りのことは全くできない。完全にベッドか椅子で過ごす。

出典:JCOG:ECOGのPerformance Status(PS)の日本語訳

【参考文献】

>オンコロ 中皮腫の治療 – 化学療法 –

>国立がん研究センター がん情報サービス -中皮腫 治療の選択-

>国立がんセンター東病院 がん化学療法・放射線治療Q&A

>石綿・中皮腫研究会ほか編(2018)『中皮腫瘍取扱い規約』金原出版

「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブック

中皮腫の放射線療法

放射線療法は、高エネルギーの放射線をがんの存在する範囲に照射して、がん細胞に傷害を与えて小さくする方法です。がんの痛みに対して放射線治療を行うと、多くの患者さんで痛みが軽減されることが示されています。放射線療法には、主に二つの方法があります。

①胸膜外肺全摘術などの根治術後の再発予防のための放射線療法

腫瘍のあった臓器側の胸壁全体に放射線を照射します。照射範囲は首の付け根からへそまで、上半身半分です。照射する範囲には気管や食道などの大切な臓器があり、臓器が耐えられる放射線量に限定されるために満足な量で実施できない場合もあります。前述のとおり、胸膜切除/肺剥皮術での放射線治療は国外での報告事例はありますが、実施にあたっては慎重にならざるを得ない、との判断がされています。

全胸郭照射

出典:「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブックより

②根治術が困難な場合などに、腫瘍縮小や疼痛軽減のための放射線療法

根治術が困難であったり、術後再発の場合に患部の疼痛軽減を目的としています。全身状態の程度や腫瘍サイズに対する判断もありますが、比較的多くの患者さんに適応されます。「ガイドライン」では、疼痛緩和を目的とする放射線治療は推奨されています。

限局照射

出典:「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブックより

放射線療法の副作用と今後の治療法

副作用は主として放射線が照射された部位に起こります。主なものは、放射線治療中や終わりごろから症状が強くなる放射線による特殊な肺炎、食道炎、皮膚炎です。肺炎の初期症状は、咳や痰(たん)の増加、微熱、息切れです。食道炎では固形物の通りが悪くなり、胸やけや痛みを伴うこともあります。症状が強いときには放射線治療を延期・中止し、痛みがある場合は食事・飲水制限を行い、鎮痛薬の服用や栄養剤の点滴で対処します。また、全身の副作用としては、だるさ、食欲低下、白血球の減少などがあり、個人によって程度が異なります。症状が強い場合は、症状を和らげる治療をしますが、通常は、治療後2週から4週ぐらいで改善します。

最近では陽子線治療、サイバーナイフなどの新しい治療機器を用いた放射線療法もいろいろながんに対して使われるようになってきましたが、中皮腫に対しては、これらの新しい放射線治療手段が、従来の放射線治療手段よりも優れているかどうかは、まだわかっておらず、これからの研究(臨床試験)によって明らかにされると期待されています。

【参考文献】

>国立がん研究センター がん情報サービス -中皮腫 治療の選択-

>国立がん研究センター 希少がんセンター -悪性胸膜中皮腫-

「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブック

>石綿・中皮腫研究会ほか編(2018)『中皮腫瘍取扱い規約』金原出版

中皮腫の免疫療法

そもそも私たちの体の中で、「自分の体の細胞」ではないものを「異物(いぶつ)」と呼びます。細菌やウイルスなどは「異物」の代表例ですが、体には異物の侵入を防いだり、侵入してきた異物を排除したりして体を守る抵抗力が備わっています。

免疫療法とは、免疫本来の力を回復させることによってがんを治療する方法です。

オプジーボの効果と副作用

2018年は免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ(商品名:オプジーボ))も悪性胸膜中皮腫の適応になり、新時代の治療エビデンスが実臨床で展開されつつあります。

しかし効果が認められている治療でもすべての患者さんに効果があるわけではなく、一定の割合の患者さんに効果があることがわかってきました。そのために治療を行う場合は主治医とよく相談をして、副作用が出てきたときや病状が悪化したときに適切な対応ができるようにしておきましょう。「重大な副作用」「その他の副作用」など重要な情報などにも注意を向けてください。

そして現状では「免疫療法」はさまざまな治療法を含んだことばであり、有効性が科学的に証明されていないものも存在します。効果が明らかになっていない治療法は、健康保険の適用する治療(保険診療)ではないことから、患者が全額治療費を支払う自由診療として行っている医療施設もあります。

注意事項として標準治療を行っている医療機関で治癒を目的とした治療が難しくなり、主治医から緩和医療の必要性を告げられた方に免疫療法を希望される場合があります。その場合に免疫療法を行う医療機関の担当医に副作用が出た場合や病状が悪化した場合にどのような対応をしてもらえるのかを十分に確認することをお勧めします。標準治療を行った医療機関と免疫療法を行った医療機関双方の受診が途切れてしまい、行き場を失ってしまう「がん難民」にならないように注意しましょう。

オプジーボ関連の臨床試験状況

ニボルマブとイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用投与、標準的一次化学療法にニボルマブを加えた3剤併用化学療法の試験も実施されている状況にあります。

【参考資料】

国立がん研究センター がん情報サービス -免疫療法 まず、知っておきたいこと-

国立がん研究センター がん情報サービス -免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ-

>石綿・中皮腫研究会ほか編(2018)『中皮腫瘍取扱い規約』金原出版

中皮腫の緩和医療(ケア)

緩和医療(緩和ケア)は、がんによる症状を抑え、患者さんの生活の質(QOL:クオリティー・オブ・ライフ)を向上させる方法です。一昔前までは「緩和ケア=死」というイメージがありましたが、現在では治療と同時に緩和医療を導入することが推奨されています。そして胸痛や呼吸困難、咳、発熱などの症状は薬や酸素吸入などで対処をして、大量の胸水や腹水の貯留による症状は、ドレナージにより緩和を図るなどができます。

しかし手術や抗がん剤などの治癒を目的とする治療の効果が少なく、逆に治療を継続することで患者さんに心身に負担が発生する場合はホスピス(緩和ケア病棟)への入院や在宅緩和医療という終末期医療を行うことも患者さんの生活の質と尊厳を大切にする選択肢の一つになります。主治医はもちろんですが、看護師や各病院に設置されているがん相談支援センターや地域連携室に相談することもできます。

胸膜中皮腫の進行で生じる症状と対処法の一例

胸、背中から生じる痛み

胸壁や胸の神経へ腫瘍が広がることで生じます。持続的かつ増強していく痛みです。モルヒネなどの鎮痛剤、貼り薬、放射線治療、持続皮下注射、背中からの硬膜外麻酔などの使用が考えられます。

息切れ、呼吸困難、咳

胸水が増えることが原因です。胸膜癒着術の実施、コルチコステロイドやモルヒネ、抗不安薬などの使用が考えられます。また、低酸素血症が出た場合に酸素吸入法を用いることもできます。在宅でも、携帯型酸素ボンベや酸素濃縮器を使用して鼻カニューレなどを使用して酸素吸入ができます。

発熱

発熱では体温の上下による悪寒・発汗が不快感を生じさせます。体温上昇を抑制するために解熱剤の使用が考えられます。水分補給も必要です。

全身倦怠感

手術や化学療法、くすりの使用、不安などのいくつかの要因が重なって生じます。ヨガ、リラクゼーションなどでの生活改善、点滴での栄養補給、抗うつ薬やコルチコステロイドの使用が考えられます。

【参考文献】

>国立がん研究センター がん情報サービス -中皮腫 治療の選択-

>ONCOLOGY オノオンコロジー

「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブック

中皮腫とこころのケア

「中皮腫(がん)」いう言葉は、心に大きなストレスをもたらします。そして、病名を耳にした後の数日間は、「まさか私が中皮腫(がん)のはずがない」「何かの間違いに決まっている」などと、認めたくない気持ちが強くなる人がほとんどです。これは、大きな衝撃から心を守ろうとする通常の反応です。

しかし多くの患者さんは時間の経過とともに「つらいけれども何とか治療を受けていこう」、「これからするべきことを考えてみよう」など、見通しを立てて気持ちの整理が出来てきます。

しかし、ひどく落ち込んで何も手に付かないような状態が長引いたり、日常生活に支障が続くようであれば、適応障害や気分障害(うつ状態)かもしれません。心と体は一体のもので、こうしたつらい状態が長く続くと体にも大きな負担になります。できるだけ早く精神科や心療内科などを受診して適切な心のケアを受けることが大切です。

再発・転移の不安と実際

中皮腫は再発や転移が生じることが多く、そのような不安と向き合う時期もあります。療養中の患者さんが、どのような工夫をされているのか「中皮腫再発・転移座談会/それでも前を向いて生きている」などを参考にしてみてください。

家族へのケアも

また、一部の医療機関では「家族ケア外来」を設置していたり、精神腫瘍科でも家族の心のケアをしています。

【参考文献】

>がんになったら手にとるガイド -がんと言われたあなたの心に起こること-

>国立がん研究センター がん情報サービス -がんと心-