中皮腫とは

更新日 : 2020年4月13日

公開日:2019年1月1日

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中皮腫が発生する部位

そもそも中皮腫(ちゅうひしゅ)の“中皮”とは「肺、心臓、胃腸・肝臓などの臓器を包む胸膜(肺)・心膜(心臓)・腹膜(腹部臓器)・精巣鞘膜(精巣漿膜)という膜」のことで、この中皮から発生したがんを中皮腫といいます。発生の理由については解明されていません。

胸膜は、壁側と臓側の二つが重なっています。心膜・横隔膜の表面にも壁側胸膜があります。壁側胸膜は肺の全体を覆う膜です。胸膜中皮腫においては、壁側胸膜から腫瘍が発生して、臓側胸膜や肺、横隔膜、心膜、胸郭に進展します。局所的な浸潤が強いですが、遠隔転移の頻度は肺がんよりも低いとされ、その割合が2%程度とされる報告もあります。

中皮腫が発生する比率は胸膜が約80%、腹膜が約20%、心膜が約1%、精巣鞘膜が約1%となっています。

悪性中皮腫発生部位

出典:「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブックより

中皮腫の原因

中皮腫発生の要因は、そのほとんどがアスベスト(石綿)を吸ったことが原因です。そのため、中皮腫と診断された方は労災制度石綿救済制度などのいずれかの制度で請求(申請)をすれば必ず認定を受けることができます。

石綿を吸った確実な証拠として、画像所見において良性の病変である「胸膜プラーク」がみられることがあります。これ自体、肺の機能へ影響を与えたり、がん化するものではありません。環境省の中皮腫登録事業の集計では中皮腫1,506例に対して、1,170例(77.7%)には胸膜プラークが見られなかったという報告もあり、胸膜プラークが中皮腫発症リスクを高めているとはただちに言えません。

アスベストを吸ってから中皮腫が発生するまでの期間はとても長く、25年から50年程度(平均で40年ほど)経ってから発生するとされています。アスベストを吸った量と発症における「しきい値」がないとされており、比較的少ない量のばく露でも発症する可能性があります。アスベストには大きく2つの鉱物グループに分けることができますが、蛇紋石族グループに属する白石綿(クリソタイル)よりも、角閃石族に属する青石綿や茶石綿の方が高い発がん作用があるとされています。現在、年間で1500人程の方が中皮腫によって犠牲になっています。

中皮腫の初期症状

症状は胸痛、息切れ、胸の締めつけ、咳(せき)、大量の胸水による呼吸困難や胸部圧迫感、労作時呼吸困難があります。また、原因不明の発熱や体重減少がみられるときもあります。病初期においては無症状の場合もあり、検診で発見されることもあります。腹膜中皮腫では、腹痛や腹部膨満感などもみられます。これらは中皮腫に特徴的な症状とはいえず、早期発見が難しい病気です。胸膜中皮腫の場合、腫瘍が胸壁に浸潤してくると背中や胸の痛みが生じ、全身倦怠感や体重減少、発熱がみられることもあります。

中皮腫の診断

中皮腫以外の腫瘍でも画像上では中皮腫と似たような発育をしていくことがあります。そのため組織診断による病理学的な確認が求められます。確定診断には、可能なかぎり全身麻酔胸腔鏡下胸膜生検をすることが推奨されており、胸膜生検によって組織診断による組織亜型や病変の浸潤度まで診断をつけることが望ましいとされています。逆に、末梢血中のマーカー測定や胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定による確定診断は推奨されていません。また、迅速組織診で中皮腫と診断された事例の診断のたしからしさを検証した研究では、少なからず誤診例もみられるなどの報告もあり、推奨されていません。

胸腔鏡下で生検を実施する場合、画像ガイド下針生検で4%、外科的生検で22%で播種の発生率が指摘されている報告もあり、外科的生検をおこなう場合は必要性を十分に検討して小切開での実施が望ましいとされています。経験が豊富な病理医であっても診断が難しいことがあり、臨床医や放射線科医を含めて、石綿ばく露歴や画像の経過、胸水の推移などから慎重に検討されます。

病理分類としては大きく、びまん性悪性中皮腫(胸膜に沿って腫瘍が発育するもの)と限局性悪性中皮腫(胸膜の一部にかたまりを形成して腫瘍が発育するもの。症例としてはこれまでに50例ほど)があり、このうち上皮型(約60%)・肉腫型(約20%。全中皮腫のうち約2%にあたる繊維形成型含む(びまん性中皮腫のみ))・二相型(約20%)に分けられます。なお、腹膜中皮腫では、大部分は上皮型、二相型は頻度が低く、肉腫型は稀とされています。これら以外に、WHO分類(2015)では、高分化乳頭状中皮腫とアデノマトイド腫瘍が位置付けられています。病理分類によって、進行の速さや抗がん剤治療の奏功率に違いがあるとする研究もあります。胸膜中皮腫を含め、「肺がん」とは発生部位が異なり、がん細胞の性質・症状なども違うことから治療方法(中皮腫の治療について)も異なります。

中皮腫のステージ診断

胸膜中皮腫の病期分類(腹膜・心膜の病期分類はまだ決められていません)

※図(悪性胸膜中皮腫の臨床病期(ステージ))については、日本肺癌学会編(2019)『患者さんのための肺がんハンドブック 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫含む』金原出版、p.153より転載。金原出版株式会社・転載許諾済

中皮腫病気

I

片側の胸膜注)にのみがんがある(リンパ節転移や離れた臓器への転移がない)

Ia期:外側の胸膜(壁側胸膜:へきそくきょうまく)にのみがんがある

Ib期:内側の胸膜(臓側胸膜:ぞうそくきょうまく)にがんが広がっている

悪性中皮腫ステージ

 II

片側の胸膜にのみがんがあり、横隔膜の筋層や肺に広がっている

(リンパ節転移や離れた臓器への転移がない)

悪性中皮腫ステージ

III

同側のすべての胸膜ががんに侵され、周囲に広がっている状態であるが、手術治療の可能性が残されている。がんのある側のリンパ節に転移があるが、胸腔外には転移していない状態

悪性中皮腫ステージ

IV

がんが胸壁、縦隔、横隔膜下などに広がり、切除することができない状態まで広がっている。反対側のリンパ節や胸腔外に転移している

悪性中皮腫ステージ

中皮腫の治療選択

中皮腫の進行の程度や他の臓器などへの転移の有無、医師や医療機関の経験値で治療内容が異なるために、病気の状況を把握するためセカンドオピニオンを活用するなど、医師との十分なコミュニケーションを心掛けましょう。セカンドオピニオンでは、①予定している治療の効果、②治療効果に対しての副作用等のリスク、③治療後の日常生活への影響、④これらを総合的に検討した場合の治療の意義、などについて質問をしてみましょう。患者さんご本人が情報を集めるためのアンテナを張って、抱いている気持ちを伝えることも大切です。医療機関などによっては新薬の治験を実施している場合もあります。治験では、安全性や有効性、使用法等を確認する3つの段階があります。臨床試験の最新情報も定期的に更新されますので、そのような情報も踏まえ、ご関心のある方は必ず主治医に相談した上で参加の有無を判断しましょう。

治療方針について、患者さんとご家族で意見が異なることも珍しくありません。例えば、「副作用による日常生活への影響が心配だ」と思う患者さんに対して、「できる限りの治療を積極的にしてほしい」とご家族が希望するケースもあります。ご家族からすれば、病気を治してもらいたい一心から来る気持ちですが、だからこそ嫌だと言い出しにくい場合もあります。まずは、できるだけ冷静になり、患者さんとご家族それぞれの思いや考えを語り合うことが大切です。最終的に治療を受けるのは患者さんであり、ご本人の希望が尊重されるよう無理強いをせず、意見が分かれる場合でも患者さんの治療方針の考えにまずは耳を傾けてみましょう。

中皮腫の予後と生存率

中皮腫の診断をされた多くの方が、予後・余命について厳しい情報を伝えられたり、インターネット上でも同じような情報に溢れています。しかし、決して少なくない数の方がそのような一面的な情報とは異なる形で療養生活を送っています。そのような方々も当初は、予後・余命について多くの方と同じように後ろ向きな情報にしかアクセスできませんでした。中皮腫患者であっても、中皮腫サポートキャラバン隊のような当事者の体験談からは長生きされている方のものも含めて、ごく普通の日常生活を送るためのヒントが得ることができます。

また、患者さんとご家族のまわりには医師(内科医、外科医、緩和ケア医、精神・診療内科医、かかりつけ医等)、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、リハビリテーション専門職(理学療法士、作業療法士等)、管理栄養士、カウンセラー(臨床心理士)などさまざまな専門スタッフがいます。その時々のニーズに合わせてアドバイスを求めることもできます。介護保険制度の利用などについても相談してみましょう。

【参考文献】

>国立がん研究センター がん情報サービス-中皮腫 基礎知識-

>国立がん研究センター 希少がんセンター -悪性胸膜中皮腫-

>がん情報サイト Cancer Information Japan -悪性中皮腫の治療(PDQ®)-

国立がん研究センター がん情報サービス -中皮腫 検査・診断-

>井内康輝編(2015)『石綿関連疾患の病理とそのリスクコミュニケーション』篠原出版新社

>石綿・中皮腫研究会ほか編(2018)『中皮腫瘍取扱い規約』金原出版

アスベスト(石綿)と被害の発生状況

アスベスト(石綿)は、天然にできた鉱物繊維で「せきめん」「いしわた」とも呼ばれています。「繊維状鉱物」が広義のアスベストの定義になります。

石綿の種類と性質

蛇紋石族:クリソタイル(白石綿、chrysotile)

角閃石族:アモサイト(茶石綿、amosite)、クロシドライト(青石綿、crocidolite)、トレモライト石綿(tremolitea asbestos)、アクチノライト石綿(actinolite asbestos)、アンソフィライト石綿(anthophylite asbestos)

極めて細い繊維で、熱、摩擦、酸やアルカリにも強く、丈夫で変化しにくいという特性を持っていることから、建材(吹き付け材、保温・断熱材、スレート材など)、摩擦材(自動車のブレーキライニングやブレーキパッドなど)、シール断熱材(石綿紡織品、ガスケットなど)といった様々な工業製品に使用されてきました。

石綿の用途・使用量

アスベストを吸い込むことで中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水などを発症する可能性が高まることが知られており、日本では1930年から2005年にかけて合計約1000万トンという大量のアスベストが輸入されて、8割以上は建材に使用されたと言われています。

そのために中皮腫などの疾患は発症までの潜伏期間が長いことから当時、建設業・製造業・自動車整備業などのアスベストを取り扱う環境に従事していた人やアスベストが使われいる建物内で過ごしていた人の健康被害が現在になって危惧されている状況です。日本での中皮腫発生のピークは2030年頃で、罹患者数は年間3,000に及ぶと予測されています。

有名人として、小説家や放送作家として活躍した藤本義一さんやの俳優のスティーブ・マックイーンさんなども中皮腫に罹患しました。

アスベスト(石綿)輸入量

【参考資料】

独立行政法人 環境再生保全機構 -アスベスト(石綿)健康被害の救済-