中皮腫・アスベスト(石綿)疾患の労災補償認定と労働者性

公開日:2017年7月17日

中皮腫をはじめとするアスベスト(石綿)疾患に罹患された方の多くは労災保険制度の請求が可能です(石綿救済制度で認定を受けている方も請求が可能)。労災保険制度の認定にあたっては、労働者としてアスベストにばく露した期間があることが求められます。

例えば、建設業の関係でビルやマンションなどの建設工事に関わり、アスベストを吸うような仕事をしていても他に従業員を雇っているような事業主の場合は「労働者」にはなりません。

労働者であるか、そうでないかをめぐっては判断が難しいケースが出てくることもあります。労働者性に関する基本的な事項を確認しておきましょう。これまでにも、劇団員(俳優)のアスベスト労災認定事例など労働者性の判断が慎重になされた事例があります。

アスベスト被害を含む労災保険制度における労働者性の定義と判断要素

「労働者」という言葉を聞かれたことがある方も多いと思いますが、労働基準法の第9条では「労働者」について、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金の支払われる者をいう。」と定義されています。

これは、雇用契約、請負契約といった契約形式のいかんにかかわらず実質的な使用従属性、すなわち労務提供の形態や報酬の労務対償性およびこれらに関する諸要素を勘案して総合判断されるものです。労災保険法において明文の定義はありませんが、同義と解されると考えられます。

「労働者性」の判断基準に関しては、昭和60年12月19日労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」等により示されており、「使用従属性」を整理して、判断することが求められています。使用従属性は、「使用される=指揮監督下の労働」の労務提供の形態および、「賃金支払い」という対償性と言われる報酬と労務の関係性がどうかという点で判断されます。

使用従属性の構成要件

「使用従属性」の評価にあたっては、

①「指揮監督下の労働」の判断基準に照らしてみていく必要があり、具体的には(ア)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、(イ)業務遂行上の指揮監督の有無、(ウ)拘束性の有無、(エ)代替性の有無、を評価します。

あわせて、②「報酬の労務対償性」の判断基準を評価します。中には、これらの判断基準でも判断が困難な場合があり、

その場合は③「事業者性」の有無や専属性の程度などを補強的に勘案します。

それでは、これらについて説明します。

指揮監督下の労働:仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

仕事に関して具体的な依頼、仕事の従事に関する具体的な指示に対して拒否ができない場合は、指揮監督関係を推認させる要素となります。

中には、当事者同士の契約によって、包括的に仕事の依頼を受けた場合は個々具体的にその一部について拒否ができない場合もあります。あるいは専属下請けのように、ほとんど依頼された仕事を拒否できない場合もあり、このようなケースではすぐに指揮監督関係を肯定するとは言えず、契約内容なども検討する必要があります。

具体的な業務の依頼や業務に関する指示などに対して、断ることができるなど、いわゆる「諾否の自由」を有していれば、いずれかの者に従属して労務を提供しているとは言えません。この場合、当事者間の関係は対等であり、指揮監督関係を否定する要素としては強いものとなります。

指揮監督下の労働:業務遂行上の指揮監督の有無

業務の内容や進め方について具体的な指示を受けていることは、指揮監督関係を評価する重要な要素です。ただし、通常の注文者が依頼する程度の指示であれば、指揮監督を受けているとは判断できません。

使用者からの依頼や命令によって、予定されている業務以外の業務に関する指示にもとづいて従事することがある場合などには、指揮監督を受けていると判断される要素を補強するものとなります。

指揮監督下の労働:拘束性の有無

勤務時間や勤務する場所を指示され、監督管理されている場合は、指揮監督関係を構成する基本的な要素です。ただし、演奏者など業務の性質上必要であったり、建設関係など安全確保のために必要な場合もあり、時間等の指定をされることが業務内容と関連した性質なのか、業務を遂行していく上で指示等の指揮命令をする必要があるものなのかを判断する必要があります。

指揮監督下の労働:代替性の有無

業務の指示を受けながらも、本人に代わって他の者が労務を提供することが容認されているか、あるいは指示を受けた本人の判断によって補助をする者を使うことが認められているかなどは、指揮監督関係を検討する際の基本的な要素ではないですが、労務提供の代替性が認められているのであれば、指揮監督関係が否定される要素となります。

報酬の労務対償性

労働基準法第11条には次のようにあります。

「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労務者に支払うすべてのものをいう。」

あくまでも、「労務の対償」を指すものであり、報酬の名目が「賃金」であるというだけでは使用従属性の判断はできません。与えられた報酬が時間給で計算した場合などと大きな違いがない場合、欠勤した場合に対応した報酬の控除、通常手当以外の残業代等の手当の支給など、報酬の性格が労務を提供したことによる対価であると判断された場合には、使用従属性を補強する形になります。

事業者性

一般のアスベスト関連の労働者については、機械や器具、原材料等の製造手段を持っていませんが、中には、石綿原料を運搬するのに高価なトラックを所有して労働していた場合もあるかもしれません。このような場合には、前述したような要素だけで判断できず、「事業者性」について検討します。

例えば、アスベストを吹き付けるような機械や器具が安価な場合には問題となりませんが、著しく高価な場合については、事業を経営する「事業者」と言える性格が強いと判断されて、労働者性を弱める要素となります。

また、アスベスト関連企業のA社で同様の業務に従事していた正規の従業員に比べて、著しく報酬の額が高額な場合は、「事業者」への代金の支払いと認定され、労働者性を弱める要素となります。

上記以外にも、判例等によって、業務遂行で生じた損害の責任補填をしている場合、独自の商号使用が認められているなどの場合は「事業者」の性格が強いとされ、労働者性を弱める要素となります。

専属性

特定のアスベスト関連企業などでの専属性があるか否かは、ただちに使用従属性の有無を判断するものではありません。逆に、専属性がなかったことを理由に労働者性を弱めるわけではありませんが、労働者性の判断を補強する要素となりmす。

例えば、他のアスベスト関連企業の業務に従事することを制約され、加えて時間的な余裕がないなど困難な場合は、専属性の程度が高く、同社との従属関係があると考えられることから労働者性を補強する要素となります。専属下請けのような場合は、仕事の依頼や業務の諾否の自由の有無等と同様に留意しながら判断する必要があります。

全面的、ないしは部分的な報酬の固定があり、業務量との関連から事実上の固定給であるような場合やその金額が生活を維持する範囲のものであれば、生活保障的な意味があり、労働者性を補強する要素となります。

アスベスト被害を含む労災保険制度における特別加入制度

すでに触れたように、事業主や自営業者などは基本的に労災保険の対象とはなりません。しかし、アスベストばく露に関わる業務や災害の実態などを踏まえて、労働者に準じる形で保護されるべき対象の方々もいます。

日本の法律では属地主義(国家の範囲内に法律の適用を限定する考え)のため、海外へ派遣された労働者でアスベストばく露をされた方は、日本の労災保険法の対象となりません。このような方々に対して、労災保険制度の骨格を維持したまま、任意で加入することを認めて労災保険によって保護することを目的とするのが「特別加入制度」です。特別加入制度には、次のものがあります。

  • 「中小事業主等の特別加入」
  • 「一人親方その他の自営業者の特別加入」
  • 「特定作業従事者の特別加入」
  • 「海外派遣者の特別加入」

アスベスト被害を含む労災保険制度における特別加入制度と給付基礎日額

給付基礎日額は労災保険制度における休業補償給付などの給付額を算定する基礎となる金額です。労災特別加入にあたっては、3500円から25000円の範囲で定められた給付基礎日額を申請にもとづいて労働局長が決定します。

しかし、アスベスト被害を受けた方の中には、自分が被害を受けることを想定しておらず、低い金額の給付基礎日額を選択して年間保険料を支払っておられた方も少なくありません。このような方は、最終的に支払った給付基礎日額となり、仮にそれ以前に十数年にわたってそれ以上の給付基礎日額にもとづく年間保険料を支払っていても考慮されません。

アスベスト被害を含む労災保険制度における労働者性の判断を適切にするために

労災保険制度において、労働者であるかどうかということは、実態がどうなっているかという問題です。実際の申請手続きにおいては、いかに立証できるかということが問題になります。行政訴訟の段階でもそうですが、使用従属性の実態が備わっていても、それを明確に立証できるようにしていきましょう。

参考

労働基準法研究会(1985年12月19日)「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」

全国労働保険事務組合連合会 労災保険の特別加入制度

厚生労働省 特別加入制度とは何ですか。