その時栗田英司が考えた〜「もはや、これまで」から1年(2017年5月25日)

下記の文章は、2019年6月に他界した栗田英司さんが、2017年5月25日に執筆された文章です。腹膜中皮腫で19年以上の療養をされた栗田英司さんの中皮腫との向き合い方は、現在療養中の患者さんのご参考になることもあるかと考え掲載します。

1年前、会報第120号(2016年6月号)に「もはや、これまで」と題する記事を投稿しました。その中で一刻も早く抗がん剤治療をしないと「数ヵ月、1年も覚悟した方がよい」と早々命の危険があるという切羽詰まった状況と抗がん剤治療を延期するという決断について書きました。

この1年間の状況 

その会報の後、残りの時間を有意義に過ごしたいと思い、6ヵ月以内に実施できそうな「バケットリスト」(死ぬまでにやりたいことリスト)を作成し、北アルプス雪山登山、ユニバーサルスタジオジャパン、ディズニーランド、国内海外旅行、知人に会いに行く等々を実施しました。

同時に、自然治癒力を向上させることで中皮腫に対抗できないか、漢方薬、生活習慣、食習慣を改善する努力をしました。

しかし、2016年8月、2017年1月、5月の3回のCT検査では、毎回腫瘍は大きくなり、増えましていきました。大雑把な比較ですがCT画像で確認できるのは以下の通りです。

肝臓腫瘍:3㎝×7個(2016年4月)⇒ 最大6.6㎝ 3㎝以下含め20個程度(2017年5月)

                                                             主治医の見た目で肝臓体積の約1割はがん腫瘍。

肺腫瘍 :1㎝ 1個(2016年4月)⇒ 最大2㎝ それ以下含め10個程度(2017年5月) 

腹膜播種:2015年12月に播種が広がり手術できないと判断され、以来話題にもならない。

            当面、腹膜播種からの命の危険は少ないとの判断と考えられる。

医師所見:画像では見えない小さな腫瘍も次々と大きくなってきている。1年前に比べ2~3倍(体積比では4~9倍)大きくなっている。がんは加速度的に大きくなっていくので、早いうちに抗がん剤治療をした方が効果的である。

1年前と同様、喫緊の課題は肝臓腫瘍です。先日5月の診察では「これ以上大きくなったら抗がん剤治療は勧められない。次の8月のCT検査時には家族と相談の上、抗がん剤治療をするか、しないか判断してほしい」と言われました。生きながらえる努力をしながらも、検査結果は悪化の一途をたどっています。

現在の心境「余命1年ロス?」 

漢方薬、生活習慣と食習慣の改善努力の成果なのかどうかはわかりませんが、現時点においては体調は良く症状はでていません。普通に仕事をし、社会生活を送っています。腫瘍が大きくなっているとはいえ「抗がん剤治療を延期する」という去年の決断に自分としては満足のいく結果であったと考えています。

ただ、1年前の時点で余命1年を覚悟し「来年の桜を見るまでがんばる」「たとえ1年以内に死んでも本望だ」と強い想いがありました。しかし、結局「死」が訪れないことに対して肩透かしを食らったのが原因か、一区切りの目標を達成したことが原因か定かではないですが、最近はやりの「○○ロス」、この場合は「余命1年ロス」のような喪失感が生じています。目標を失い、積極的に考えたり、行動したりできなくなっています。

たとえば、先日抗がん剤治療を強く勧められ、考えて判断をすることにストレスを感じています。また、時の経過とともに、おなかが出てくると腹水がたまってないだろうか、疲れると黄疸が出てないかと考えたり、血液検査の肝機能数値が異常値だが大丈夫だろうか、と心配になったりします。やりたいことを書いていたバケットリストも更新されず空っぽになっています。

自分自身で引いた目標値に足を引っ張られる形になってしまいました。CT検査の結果が良ければ引き続きその方向で行動できたでしょうが、方向性を失っている感じです。今一度自分の生き方、考え方を見直してみる必要があります。

明日世界が滅びようとも私はリンゴの木を植える 

8月には抗がん剤治療をするかどうか、もう一度判断します。主治医のあの雰囲気を察すると「ファイナルアンサー」です。よく考えないといけません。

ともあれ、今は元気に生活しています。思い起こせば、1999年に告知された「余命1年」から17年が経過しました。この経験から、人の命の終わりについては、医者も知らず、自分も知らず、ただ神だけが知っている事柄であると思います。

それに関連して「明日世界が滅びようとも、私はリンゴの木を植える」とルターは言いました。私たちは「死」の時期に関しては神に任せ、普通の日常生活を粛々と過ごしていくのが良いのだろうと思います。

最近やってるのですが、朝、目が覚めたら「さぁ、リンゴの木を植えに行くかぁ」と仕事に出かけるようにしています(笑)

☆☆ 追記 ☆☆

上記記事は、5月中旬に書き上げました。その後、変化を経験することになります。

「最近元気お過ごしですか?」という複数の連絡を受け、近況をできるだけ正確に伝えたいと思い5月28日にブログを立ち上げました。

また、「死を覚悟した人たち」「死を覚悟したのに死ねなかった人たち」の気持ちを知りたいと思い、6月中旬「特攻隊ツアー」なる旅行に出かけました。東京都の靖国神社、広島県の大和ミュージアム、山口県の人間魚雷回天記念館、鹿児島県の知覧特攻平和会館、熊本県の天草四郎ミュージアムに行きました。各施設では、当時の記録、解説、ボランティアによる説明により本当に多くの勉強をすることができました。

さて「アスベスト問題について知りたいとき、どこに行けばいい?」と思いました。よく、中皮腫になった人が、インターネットでいろいろ調べたけど結局何からすればいいか、どこに行けばいいかわからない、消極的な情報ばかりでがっかりしてしまった、ひどいときには「ガン難民」のようになってしまった人もいます。

この旅行を通し、アスベスト問題やその疾患について、正確な情報を「記録し、集約、伝承」することが大切だと思いました。

例えば、自分の闘病記を書いたり、全国の長期生存者の人たちのインタビュー調査をして経験談としてまとめれば、新たな患者さんの励みになります。また、アスベスト疾患になったばかりの人がインターネットを検索して道に迷わないようにアスベストポータルサイトのようなものがあればいいなと思います。

将来的には、アスベスト記念館、アスベスト総合センター設立です。

夢ばかり、追いかけないでとりあえず、ブログを日々更新し、6月27日には神奈川支部の講演を行い「リンゴの木を植え」続けます。

腹膜・心膜・精巣鞘膜中皮腫におけるニボルマブ(オプジーボ)使用についての署名のお願い

胸膜中皮腫のセカンドラインの治療薬として、昨年、ニボルマブ(オプジーボ)が保険適用薬として使用されるようになりました。
一方、胸膜中皮腫以外の腹膜等の中皮腫(腹膜、心膜、精巣鞘膜)の患者は非該当とされたままです。
腹膜等の中皮腫患者は、胸膜中皮腫に準じる治療を受けています。
私達は、腹膜等の中皮腫患者にも胸膜中皮腫と同様の治療の選択肢を一日も早く認めて頂きたいと願っています。
この切実な思いを以下の要望にまとめ、政府、薬品会社、医療者の皆さんに届けたいと思います。
できるだけ多くの中皮腫患者の方々にこの要望に加わって頂きますようお願いいたします。同時に、患者家族をはじめ、多くの皆さんにご賛同の署名を頂きますようお願いいたします。
2019年6月7日
中皮腫サポートキャラバン隊
共同代表 栗田英司・右田孝雄