石綿健康被害救済制度で中皮腫の確定診断が否定された!?公害健康被害補償不服審査会で「中皮腫とは判定できない」とされた処分の取り消し事例

中皮腫の診断をされたという方からのご相談を受ける中で、稀に主治医(病理医)の診断と労災制度や石綿健康被害救済制度における判定で、「中皮腫でない」とされることがあります。そのまま不認定を受け入れる方もいるでしょうが、中には、「公害健康被害補償不服審査会」へ申し立て(審査請求)をする方もいます。

日本肺癌学会が発行している『肺癌取扱い規約』(第8版)によれば、中皮腫には「びまん性悪性中皮腫」、「局限型悪性中皮腫」、「高分化乳頭型悪性中皮腫」、「アデノマイド腫瘍」に大きく分類されています。下記は同規約で整理されている分類とその定義になります。

1)びまん性悪性中皮腫(Diffuse malignant mesothelioma)

【定義】中皮腫細胞への分化を示す細胞が、胸膜に沿ってびまん性に広がる悪性腫瘍。

(1)上皮型中皮腫(Epithelioid mesothelioma)

【定義】上皮性の形態を示すびまん性悪性腫瘍。

(2)肉腫型中皮腫(Sarcomatoid mesothelioma)

【定義】紡錘細胞の形態を示すびまん性悪性中皮腫

(3)繊維形成型中皮腫(Desmoplastic mesothelioma)

【定義】密な膠原線維の増生を伴いつつ、悪性中皮細胞が花むしろ状あるいはpatternless patternを示して増殖する像により特徴付けられるが、少なくともこれらの膠原線維が50%を超えなければならない。

(4)二相型中皮腫(Biphasic mesothelioma)

【定義】上皮型あるいは肉腫型を示す成分が少なくとも10%以上存在するびまん性中皮腫

2)「局限型悪性中皮腫」(Localized malignant mesothelioma)

【定義】肉眼的に明瞭に限局化された結節性病変として認識される、稀な中皮腫である。肉眼的あるいは組織学的には胸膜ひょうめんへのびまん性進展はみられない。しかし、組織学的、免疫組織化学的、そして超微形態学的には、腫瘍細胞の性質はびまん性悪性腫瘍と同様である。

3)「高分化乳頭型悪性中皮腫」(Well-differentiated papillary mesothelioma)

【定義】異形性のない細胞が乳頭状構造を示し、浸潤を示さずに胸膜表面に向かって増殖する、稀な中皮細胞由来の腫瘍である。本腫瘍は、乳頭状パターンを示すびまん性上皮型悪性中皮腫と、臨床的、形態学的、そして、予後的に異なる別の腫瘍である。

4)「アデノマイド腫瘍」(Adenomatoid tumour)

【定義】他部位(特に女性生殖器)に発生するアデノマイド腫瘍と組織学的に同様の形態を示す、中皮細胞に由来する腫瘍である。臓側、壁壁胸膜のいずれからも発生し得る。胸膜のアデノマイド腫瘍の報告はきわめて稀である。

しかし、『石綿関連疾患の病理とそのリスクコミュニケーション』では、「中皮腫診断の経験豊富な5名の病理医が自施設から計82例の中皮腫例を持ち寄り、一致した例は67例(81.9%)であり、約2割の症例で組織亜型一致しなかった」、「分化度の低い上皮型と肉腫型、肉腫型と線維形成型、肉腫型と退形成型で意見の分かれる例の割合が多い傾向があった。コンセンサス診断はディスカッション顕微鏡でともに検鏡し免疫組織化学的染色標本も検鏡して合議で下した最終判断である。このように比較的中皮腫診断の経験豊富な病理医であっても現状の組織亜型分類の一致性には困難性があることから、今後、中皮腫の病理診断に関してはその亜型分類を含めた中央診断や、インターネット(バーチャルスライドシステムを含む)を用いた中皮腫の病理診断に関するコンサルテーションシステムの構築やチュートリアルコンテンツの作成などが必要などと考えられる」としています。

さて、公害健康被害補償不服審査会は、「公害健康被害の補償等に関する法律第106条第2項及び石綿による健康被害の救済に関する法律第75条第1項第1号の規定による審査請求の事件を取り扱う」機関です。石綿の救済制度や水俣病などに代表される公害健康被害補償法で不認定になった方々の異議申し立て機関のような位置付けです。

審査会では、定期的に申し立てのあった事案を審議した裁決結果と概要を公表しています。その一つに、最初の判定で中皮腫を否定された患者さんの遺族が、公害健康被害補償不服審査会で原処分を取り消された(すなわち、「中皮腫」と認定された)事案があります。

裁決書によると概要は次のとおりです。

・審査請求人は申請中死亡者の妻。審査請求人は、申請中死亡者が石綿を吸入することにより中皮腫に罹患したとして申請。

・請求人は、審査請求の理由として、「審査請求人の亡夫は、子供の頃に 『○○ 』(注-裁決書では『』内は黒塗り)というアスベスト製品製造工場近くに、長期間居住し、工場敷地内で遊んだことがあった。また、近くに他のアスベスト関連工場も複数あった。石綿にばく露したことは明らかであるため。さらに、肺内の石綿小体数が9313本/g dryであり、石綿ばくろの医学的所見も明らかで あるため。」と主張する。

・これに対し、処分庁は、機構においては、提出された資料を基に適正な手続き及び環境大臣の医学的判定を経て不認定と決定した。

公害健康被害補償不服審査会はこの事案について、次のような立場を取ることを裁決書で示しています。

・中皮腫をめぐる医学的判定について、中環審石綿健康被害判定小委員会は、「医学的判定に係る資料に関する留意事項」(平成26年6月24日。 以下「留意事項」という。)の中で中皮腫について以下の考え方を示してい る。「中皮腫とは、漿膜表面に存在する中皮細胞に由来する悪性腫瘍であり、 特異的な症状や検査所見に乏しく、診断困難な疾患である。このため、その診断に当たっては、臨床所見、臨床検査結果だけでなく、病理組織所見に基づく確定診断がなされることが極めて重要である。また。診断に当たっては、疾患頻度が低いこと、画像上特異的な所見を有さないことなどから、いわゆる除外診断だけでなく、病理組織診断において、他疾患との鑑別が適切に行われることが必要である。 したがって、本救済制度の医学的判定においては、病理組織診断の結果なしでは、中皮腫であるかどうかの判定をすることは非常に困難である。 また、組織が採取できない場合には細胞診断の結果を提出することが次善であり、原則としてこれらの病理学的所見なしに中皮腫であると判定する ことはできない。」 この留意事項は、現在の国際的な医学的水準を踏まえた合理的で妥当なものとして、当審査会においても、この考え方に基づいて判断をするが、後に詳述するとおり、本事案は、留意事項にいう「原則としてこれらの病理学的所見なしに中皮腫であると判定することはできない。」ことの例外的な症例と捉えられるものである。

その上で、結論を次のように示しました。

・病理組学的診断では、陽性マーカーは陰性だが、その染色性は十分でなく、また一般に中皮腫であっても一定の割合で陰性を示すことがあるため、中皮腫を直ちに否定できない。HE染色の組織像は骨外性肉腫の所見に相当するが、臓器割面写真の肉眼的所見は、骨外性骨肉腫とは考えがたく、腫瘍は中皮腫の広がり方に非常に近い特徴をもっている。S.Kleboらの論文「Modern Pathology(2008)21,1084-1094」の見解をも勘案し、異型性要素をもった中皮腫の可能性が最も高いと考える。放射線画像診断では、腫瘍は胸膜由来と考えられ、中皮腫の所見と矛盾しない。 当審査会は、以上の診断に加え、石綿への濃厚なばく露歴をも勘案し、中皮腫であると判定する。 よって、中皮腫とは判定できないとして不認定とした原処分を取り消す。

すでに触れたように、中皮腫の病理診断には、専門家のあいだでも判断が分かれるケースがあります。この裁決事案はおそらく、中皮腫の診断を肯定する適切な意見を書いてくれる医師などの支援があったものと考えられます。相談者を頂く方の中には、全体像がわからずに進むべき方向性がわからずにお一人で困っている方も珍しくありません。お心当たりのある方はすぐにご相談をください。

公害健康被害補償不服審査会 平成28年12月16日裁決事案(平成26年第24号)裁決書https://www.env.go.jp/press/files/jp/104344.pdf

特定非営利活動法人 日本肺癌学会編『臨床・病理 肺癌取扱い規約』【第8版】(2017)、金原出版

井内康輝編『石綿関連疾患の病理とそのリスクコミュニケーション』(2015)、篠原出版新社

腹膜・心膜・精巣鞘膜中皮腫におけるニボルマブ(オプジーボ)使用についての署名のお願い

胸膜中皮腫のセカンドラインの治療薬として、昨年、ニボルマブ(オプジーボ)が保険適用薬として使用されるようになりました。
一方、胸膜中皮腫以外の腹膜等の中皮腫(腹膜、心膜、精巣鞘膜)の患者は非該当とされたままです。
腹膜等の中皮腫患者は、胸膜中皮腫に準じる治療を受けています。
私達は、腹膜等の中皮腫患者にも胸膜中皮腫と同様の治療の選択肢を一日も早く認めて頂きたいと願っています。
この切実な思いを以下の要望にまとめ、政府、薬品会社、医療者の皆さんに届けたいと思います。
できるだけ多くの中皮腫患者の方々にこの要望に加わって頂きますようお願いいたします。同時に、患者家族をはじめ、多くの皆さんにご賛同の署名を頂きますようお願いいたします。
2019年6月7日
中皮腫サポートキャラバン隊
共同代表 栗田英司・右田孝雄