建設アスベスト(石綿)訴訟裁判の動向 中皮腫・アスベスト疾患被災者の補償・救済の賠償(給付)の到達点

更新日:2020年6月8日

公開日:2019年10月21日

中皮腫肺がんをはじめとするアスベスト被害の発生において、最大の被害者を生んでいる業界が建設業です(アスベスト裁判と賠償の概要)。労災制度救済制度で認定された被害者が、2008年に建設現場におけるアスベスト被害について国と企業(建材メーカー)を相手取った「建設アスベスト訴訟」が提訴されました。東京地裁、神奈川(横浜)、北海道(札幌)、京都、大阪、福岡の6地裁に提訴されています。現在では、東京、神奈川、京都、大阪、福岡の各1陣が最高裁で、札幌1陣、神奈川2陣がそれぞれ高裁で、ほかは各地裁で係争中です。2020年3月に入って、東京や大阪などの各地で3陣の提訴がされました。

ここまでの判決内容を振り返り、現在の司法判断を整理しておきたいと思います。現在までの各判決における国と企業の責任は次のようになっています。

出典:大阪アスベスト弁護団 建設アスベスト訴訟

神奈川建設アスベスト訴訟第一陣横浜地裁判決の判断

判決日:2012年5月25日

原告患者数(判決時点):75名

被告:国、建材メーカー44社

国の責任:認めず

建材メーカーの責任:共同不法行為の責任を認めず

賠償額:無

国の一人親方および零細事業主の保護:対象外

原告の主張

原告側は、①1950年に制定された建築基準法において、1964年から1975年にかけて石綿を含有した建材を用いた構造を建築基準法において耐火構造などに指定いたことの違法性、②上記の期間において、指定を取り消さなかったことの違法性、③1955年から1975年のあいだに建設作業従事者の石綿ばく露防止のために労働基準法や労働安全衛生法などで規制を設けなかったことの違法性(特に、石綿の製造等の禁止は1987年の時点で禁止しなかった)を主張しました。

建材メーカーについては、1955年には建設現場における被害の発生を予見できたため、アスベスト含有建材の製造・販売を中止すべきであった。それをせずに、製造、加工、販売して市場に流通させた行為が民法719条第1項の共同不法行為にあたると主張しました。

国の責任に対する裁判所の判断:請求棄却

国が、石綿関連疾患のうち、石綿肺については1959年頃、石綿肺がんと中皮腫については1972年頃(ILO(国際労働機関)、IARC(国際がん研究機構)がアスベストのがん原生が明言された)には、アスベストばく露によってこれら疾患を発症させることが明らかになっていたと判断しました。

その上で、⑴建築基準法上において石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等として指定したこと及びそれを取り消さなかったことの違法性、⑵1964年から1987年のあいだにかけて原告が主張する時期に①石綿の製造等の禁止、②石綿含有製品への警告表示の義務付け、③建設現場における粉じん濃度測定の義務付け、④石綿吹き付けの禁止、⑤石綿を取り扱う建設現場における警告表示の義務付け、⑥集じん機付電動工具の使用の義務付け、⑦プレカット工法の義務付け、⑧局所排気装置使用の義務付け、⑨エアラインマスクの使用の義務付け、⑩特別教育の義務付け、⑪毒物劇物取締法における劇物の指定をしなかったことの違法性があるとした原告の主張をすべて退けました。

一人親方および零細事業主の労働安全衛生法の保護対象とは認めませんでした。

企業の責任に対する裁判所の判断:請求棄却

裁判所は次のような点を指摘し、被告企業の共同不法行為の責任を認めませんました。

民法719条第1項の共同不法行為の成立には、共同行為者のうちの誰かが損害を発生させたことが明らかであることを前提に、実際にどの行為者が損害を加えたか不明な場合にすべての行為者が連帯で責任を負うことが定められている。しかしながら、原告の主張は被告らが国内で使用された石綿含有建材を網羅していたと主張するものの、共同不法行為成立のための「択一的競合行為」(複数の独立した行為者の競合において発生した結果は、それらの単独の行為によっても同じ結果を生じさせた)の立証には、共同行為者以外には疑いをかけられる者はいないという水準まで立証する必要がある。原告は、石綿疾患における肺がん、中皮腫については閾値がないことを理由に被告が択一的競合関係にあることを主張するが石綿建材製造メーカーは被告以外にも40社以上があり、廃業した企業もある。会社によって石綿建材の製造時期、種類、製造量、主要な販売先が異なり、原告によっても職種や石綿ばく露の場所や時期が異なる。

その上で各原告と各企業に着目すると共同行為者を限定的に特定できる余地もある、としました。なお、製造物責任法における責任も認めませんでした。

その他の判断

「少なくとも被告国には、石綿被害に関する法律の充実、保障制度の創設の可否を含め、再度検証の必要がある」との判断を示しました。

東京建設アスベスト訴訟第一陣東京地裁の判断

判決日:2012年12月5日

原告数(判決時点):308名

被告:国、建材メーカー42社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認めず

賠償額:10億6394万円

国の一人親方および零細事業主の保護:対象外

その他:喫煙歴のある肺がん原告の損害額を10%減額

国の責任に対する裁判所の判断:一部認定

国が、石綿関連疾患のうち、石綿肺については1958年、石綿肺がんと中皮腫については1972年には、アスベストばく露によってこれら疾患を発症させることが明らかになっていたと判断しました。

その上で、遅くとも1981年1月には①防じんマスクの着用、②適切な警告表示を義務付ける必要があったとして国の責任を認めました。

一人親方および零細事業主の労働安全衛生法の保護対象とは認めませんでした。

九州建設アスベスト訴訟第一陣福岡地裁の判断

判決日:2014年11月7日

原告数(判決時点):51名

被告:国、建材メーカー43社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認めず

賠償額:1億3688万円

国の一人親方および零細事業主の保護:対象外

その他:喫煙歴のある肺がん原告の損害額を10%減額

大阪建設アスベスト訴訟第一陣大阪地裁の判断

判決日:2016年1月22日

原告数(判決時点):33名

被告:国、建材メーカー27社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認めず

賠償額:9746万円

国の一人親方および零細事業主の保護:対象外

京都建設アスベスト訴訟第一陣京都地裁の判断

判決日:2016年1月29日

原告数(判決時点):27名

被告:国、建材メーカー32社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認定。エーアンドエーマテリアル、ニチアス、ノザワなど9社の責任を認めた。

賠償額:1億1245万円

国の一人親方および零細事業主の保護:対象外

その他:喫煙歴のある肺がん原告の損害額を10%減額

その他の判断

「一人親方」について、立法府の責任を問うことにより解決すべき問題との判示。

北海道建設アスベスト訴訟第一陣札幌地裁の判断

判決日:2017年2月14日

原告数(判決時点):33名

被告:国、建材メーカー41社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認めず

賠償額:約1億7600万円

国の一人親方および零細事業主の保護:対象外

その他:喫煙歴のある肺がん原告の損害額を10%減額

神奈川建設アスベスト訴訟第二陣神奈川地裁の判断

判決日:2017年10月24日

原告数(判決時点):61名

被告:国、建材メーカー49社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を一部、認定。ニチアス、ノザワの責任を認定

賠償額:約2億6000万円

国の一人親方および零細事業主の保護:対象外

その他:肺がん原告については喫煙歴を考慮

神奈川建設アスベスト訴訟第一陣神東京高裁の判断

判決日:2017年10月27日

原告数(判決時点):75名

被告:国、建材メーカー44社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を一部、認定。ニチアス、エーアンドエーマテリアル、エム・エム・ケイ、神島化学工業の責任を認定

賠償額:約3億7232万円

国の一人親方および零細事業主の保護:対象外

東京建設アスベスト訴訟第一陣東京高裁の判断

判決日:2018年3月14日

原告数(判決時点):354名

被告:国、建材メーカー42社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認めず

賠償額:約22億8147万円

国の一人親方および零細事業主の保護:対象として認定

その他:喫煙歴のある肺がん原告の損害額を10%減額

京都建設アスベスト訴訟第一陣京都高裁の判断

判決日:2018年8月31日

原告数(判決時点):27名

被告:国、建材メーカー32社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認定。エーアンドエーマテリアル、ニチアス、ノザワなど10社の責任を認めた。

賠償額:約3億円

国の一人親方および零細事業主の保護:保護の対象として責任を認定

その他:喫煙歴のある肺がん原告の損害額を10%減額

大阪建設アスベスト訴訟第一陣大阪高裁の判断

判決日:2018年9月20日

原告数(判決時点):33名

被告:国、建材メーカー22社

国の責任および責任割合:一部認定。国に2分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認定。内装材、外装材、保温材などを製造・販売したエーアンドエーマテリアル、神島化学工業、積水化学工業、大建工業、ニチアス、日東紡績、ノザワ、エムエムケイの責任を認定

賠償額:約3億3900万円

国の一人親方および零細事業主の保護:保護の対象として国の責任を認定

その他:石綿ばく露歴短期間の被災者の損害額を10%減額

九州建設アスベスト訴訟第一陣福岡高裁の判断

判決日:2019年11月11日

原告数(判決時点):54名

被告:国、建材メーカー12社

国の責任および責任割合:一部認定。国に3分の1の責任

建材メーカーの責任:共同不法行為責任を認定。エーアンドエーマテリアル、ケイミュー、ニチアス、ノザワの責任を認定

賠償額:約1億2636万円

国の一人親方および零細事業主の保護:保護対象として国の責任を認定

その他:喫煙歴のある肺がん原告やばく露期間などによって減額

大阪訴訟第二陣追加提訴(2019年3月)

大阪訴訟の原告代理人をしている大阪アスベスト訴訟弁護団によれば、被害者21名(原告31名)だった大阪2陣原告団に、新たに被害者24名(原告36名、うち本人原告9名)が加わり合計で被害者45名(原告67名)となり、大阪2陣追加提訴時点で、全国では被害者727名(原告831名)となっています。追加提訴で大阪2陣原告団は倍増となりました。屋根・外壁工、吹付工、とび工、電工補助といった様々な職種の被害者が参加するとともに、追加提訴では中皮腫の被害者が多くいました(中皮腫16名、肺がん3名、石綿肺5名)。

建設アスベスト訴訟では、国と建材メーカー(企業)の責任が認められるかどうか、建設現場では多数いる法的に「労働者」でないとされる「一人親方」について責任が認められるかどうか、が大きな焦点となっています。4つの高裁判決で見ると次のようになっています。国の責任について、内容に違いはあるものの、4つの高裁判決すべてで認められています。企業の責任については、東京1陣を除く3つの高裁判決で認められています(神奈川1陣4社、京都1陣10社、大阪1陣8社)。一人親方に対する国の責任については、神奈川1陣を除く3つの高裁判決で認められています。大阪での追加提訴においては一人親方、個人事業主も積極的に参加しています。

また、スレート工事による石綿肺によって45歳で亡くなった方の遺族が大阪の追加提訴で原告に加わりました。この方の場合は、労災保険の特別加入をしていない一人親方期間が長かったために労災認定されず、石綿救済法の適用しかなかったケースで、建設アスベスト被害者の置かれた状況の難しさを示しています。

追加提訴時の会見で弁護団は「今後、最高裁でも一人親方に対する国の責任を認めさせることが非常に重要な闘いとなる。また、国の責任の始期を昭和40年代に遡らせることも重要だ。対企業責任では、地裁判決で2つ、高裁判決で3つの企業責任を認める判決がでているが、最高裁においても、企業の共同不法行為責任が認めさせること、さらには企業の責任の始期を昭和40年代に遡らせること、吹付材メーカーの責任を認めさせることが重要。また、解体作業者との関係においても国・企業の責任を認めさせる必要がある」として、さらに救済の拡大を目指す決意を表明しています。

除斥期間20年

大阪2陣の追加提訴は3月末で締め切られました。しかしその後、「いまのうちに提訴しておかなければならない」状況の相談事案が寄せられています。死亡してから20年を経過すると損害賠償を請求する権利が消滅する「除斥期間」がすぐそこに迫っているというケースの相談が、追加提訴後に複数寄せられ早急に対応が必要になりました(療養中の石綿肺の場合では最重症の行政認定から20年)。

石綿被害の発生状況を踏まえると今後「20年」を経過してしまうケースは少なからず出てきますし、実際にすでに多く方の請求権が失われているとみられます。建設アスベスト訴訟が最高裁判決で決着をみるまでにあと数年がかかると予想されますが、その間に「20年」を経過してしまわないようにしないといけません。仮にどのような決着をみたとしても、損害賠償請求には被害状況の立証を求められることが考えられますので、該当するのではと思われるケースはできるだけ早めに声をあげることが賢明です。関心のある方はぜひ相談を寄せていただきたいと思います。

建設アスベスト訴訟は国と建材メーカーの責任を問うています。この訴訟が最終的に勝利するのか、また、どのように勝利するのか、まだまだ予断は許しません。しかし、国と企業の責任を問う以上、その結果が建設現場でのアスベスト被害のみならずアスベスト被害者全体の補償・救済進展への契機の一つになっていくことは間違いないと強く期待しています。

参考

大阪アスベスト弁護団 建設アスベスト訴訟

【中皮腫・肺がん・石綿肺(アスベスト肺)・びまん性胸膜肥厚の発症と建設業におけるアスベスト被害】埼玉・型枠大工さんの事例

2014年11月8日「国に責任 賠償命令 企業責任認めず 九州アスベスト訴訟」『しんぶん赤旗』

大阪アスベスト弁護団 建設アスベスト訴訟、勝訴!(声明・判決文)

神奈川県建設労働組合連合会 建設アスベスト京都訴訟「建材メーカーの責任が初めて認められる歴史的な判決」

2019年11月11日「二審は国と企業に賠償命令 建設アスベスト訴訟ー福岡高裁」時事通信