46年前の「中皮腫」被害 時効救済制度で認定 請求期限の延長は必須

9月17日の北海道新聞の朝刊の一面で、「46年前の『石綿労災』認定 全国最古 根室の遺族に給付金」との報道がされました。報道の概要は、1973年に中皮腫で死亡した男性の被害について、中央労働基準監督署(東京)が石綿関連業務との関連を認めて、石綿健康被害救済法にもとづく「特別遺族給付金」の支給を8月下旬に決定した、というものです。この遺族からは2019年1月に相談を受け、その後に請求から認定までを支援してきました。被災者の死亡診断書には、「悪性中胚葉上皮腫」の死因が記載されていましたが、解剖もされており、すでに石綿救済制度の特別遺族弔慰金と特別葬祭料の支給を受けていました。

遺族も、実際の職務内容については十分に把握しておらず、いくつかの会社で空調設備関係の仕事に従事していたという程度の認識でした。ただ、ご遺族が保管していた葬儀の際の芳名帳には、ビル保温設備関係の花形企業であり、アスベスト関係企業の会社名も記されていました。さらに死亡時に在籍していた企業では、別事業所で5件の石綿労災認定事例が出ていることも確認できました。同僚労働者は見つかりませんでしたが、実弟が存命しており、「両国国技館の冷暖房工事に従事したという話を聞いたことがある」という証言のみを得ることができました。これらの事実関係を総合的に判断して、業務上認定を判断されたと推測されます。

相談のきっかけは、同様に北海道新聞が1月30日に報道した、「23年前死亡男性『労災』 札幌中央労基署が給付金 『中皮腫』書類で裏付け」の記事をご遺族が見たことからでした。この事案も、記事タイトルのとおり、23年前の中皮腫死亡に関して労災時効救済で認定されたというもので、相談から認定まで支援に関わりました。業務との関連を結びつける資料は、ほとんどありませんでしたが、アスベスト関連企業の本家本元である会社名が入った作業関連証明書を遺族が保管しており、雇用保険の加入記録等と照合して認定に至りました。

時効救済制度は日常的に支援をする立場としては周知の制度であるが、被害者遺族には十分に浸透していない現状があります。また、労災制度に一定の知識を有する医療ソーシャルワーカー(MSW)の方との会話で、「5年以上前に当院で中皮腫で他界されたご遺族から相談があるのですが・・・」という話の中で労災時効救済の制度の話をすると、「そういう制度があるのですね!」という反応が最近もあった。その方でこのような反応をするのだから、想像するに、全国的にも医療従事関係者の多くにも十分な認識がされていないのだろうと想像されます。

労災制度における遺族年金ないしは一時金の請求は、患者の死亡から5年が経過すると時効になるが、救済法成立のきっかけとなった2005年のクボタショック以降、「中皮腫」という聞きなれない病名や、肺がんの遺族であっても石綿ばく露との関連性に必ずしも意識が向かず、労災請求の権利があることすら多くの被害者遺族に認知されていない状況が広く認識されました。2006年に施行された石綿健康被害救済法(以下、救済法)は、(1)労災の対象とならない環境ばく露や一人親方などの患者や遺族を救済すること、(2)労災の対象となった可能性がありながらも、遺族補償の時効を迎えてしまった遺族の救済を主たる対象として制度設計されたが、後者に対する給付の枠組みとして特別遺族給付金が設けられました。認定されると遺族の状況に応じて、特別遺族年金(240万年/年)ないしは、特別遺族一時金(1200万円)が支給されます。

石綿救済法の施行時、時効救済制度については時限的な制度として法律に定められていた。当時は2009年3月27日までが請求期限であったが、のちに衆参ねじれ国会の2008年に議員立法によって救済法が改正されたことで2012年3月27日までに延長されました。さらに、再び衆参ねじれ国会となっていた2011年に議員立法によって法改正され、2022年3月27日まで延長されました。次の図は特別遺族給付金の中皮腫と肺がんの年度別の認定者を示したものになります。

労災時効救済における中皮腫と肺がんの認定者の推移

2006年の石綿救済法成立年の認定者がもっとも多く、以降は徐々に認定者が少なくなってきています。これは「請求者」の数も同様に減っていることが要因で、一見すると、救済法成立以前と比べれば、労災制度などの周知も一定された結果、時効になる遺族が大きく減少したようにも捉えられるかもしれません。しかし、寄せられる相談の実態からは、時効になる遺族が決して少なくはないという印象もあります。

これは統計的に明らかですが、救済法が施行された2006年以降は、中皮腫では年間に1000人以上の被害者が出ていますが、それに対して労災認定(時効救済含む)の割合は4割に満たず、労災認定されていない救済制度の認定者の割合もおおむね3割強程度で推移しています。中皮腫の患者さんないしご遺族は必ず何らかの制度で認定されるわけですが、7割前後の被害者しか、石綿被害に関係する給付を受けていません。おおよそ3人に1人は未補償・未救済の環境におかれてしまっています。このような現状からも、労災時効救済が潜在的に必要となる被害者遺族は多いと考えれる。

注目すべきは、先に示した図からもわかるように2012年度の労災時効救済の中皮腫認定者が施行年度に次いで多いことです。これはその前年度末に、厚生労働省が中皮腫遺族で労災補償などの救済給付などの未請求者3613人に対して個別周知を実施した成果が端的に示されているものと言えます。個別周知等の具体的施策を実施することで、より「すき間のない救済」に近づけることが可能です。

先に紹介した2019年1月や同9月の報道を通じては、他にも数件の相談が寄せられ、すでに認定につながったものもあります。その中には、被災者が中皮腫で療養中に石綿救済制度に申請しながら、死後に不認定になったという遺族からの相談もありました。判定理由を確認すると、中皮腫の診断に至らなかったことがその理由のようですが、労災時効救済の申請では認定となりました。相談者の中には、特に肺がん関係の相談がそうですが、「救済制度で不認定になったので、まさか労災で認定になるとは思っていなかった」という方もいます。この遺族も、報道を通じて「もしかしたら」という疑問が生じて問い合わせを頂いた方でした。

あるいは別の遺族は、「まさか労災になるなど思っていなかったが、ずっと気になっていた」と話をされました。療養中や亡くなったあとは、何かと落ち着かなかったということで救済制度も労災制度の申請・請求も何一つしていなかった遺族から、被災者死亡から7年経過しているという相談もつい先日もありました。時効後に寄せられる相談一つひとつには、丁寧に話を聞くと遺族が持っている被災者に対しての大切な感情を持ち合わせていることも多くあります。統計的にも、また相談の実例からも、まだまだ時効救済制度の必要性を実感します。2022年3月27日が期限となっている時効救済の請求権を一定の年数で延長していくことは必須ですし、それを待たずに個別の周知事業を再度実施することが必要です。言うまでもなく、患者さんやご家族から相談を頂ければ私たちが速やかにご支援致しますので、いつでもお問い合わせください。

北海道新聞(2019年9月17日)「46年前の『石綿労災』認定 全国最古 根室の遺族に給付金」

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/345277

北海道新聞(2019年1月30日)「23年前死亡男性『労災』 札幌中央労基署が給付金 『中皮腫』書類で裏付け」

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/345277

厚生労働省:石綿健康被害救済法が改正されました

https://www.mhlw.go.jp/seisaku/06.html

厚生労働省:中皮腫により亡くなられた3,613人のご遺族に「特別遺族給付金制度」などの案内文を今年3月末までに送付

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000027iqf.html

『安全センター情報』(2019年1・2月号)全国労働安全衛生センター連絡会議

腹膜・心膜・精巣鞘膜中皮腫におけるニボルマブ(オプジーボ)使用についての署名のお願い

胸膜中皮腫のセカンドラインの治療薬として、昨年、ニボルマブ(オプジーボ)が保険適用薬として使用されるようになりました。
一方、胸膜中皮腫以外の腹膜等の中皮腫(腹膜、心膜、精巣鞘膜)の患者は非該当とされたままです。
腹膜等の中皮腫患者は、胸膜中皮腫に準じる治療を受けています。
私達は、腹膜等の中皮腫患者にも胸膜中皮腫と同様の治療の選択肢を一日も早く認めて頂きたいと願っています。
この切実な思いを以下の要望にまとめ、政府、薬品会社、医療者の皆さんに届けたいと思います。
できるだけ多くの中皮腫患者の方々にこの要望に加わって頂きますようお願いいたします。同時に、患者家族をはじめ、多くの皆さんにご賛同の署名を頂きますようお願いいたします。
2019年6月7日
中皮腫サポートキャラバン隊
共同代表 栗田英司・右田孝雄