オプジーボ投与/胸水との闘い

東京都 久木千歳

発症

 私の取り柄は元気なことだと思ってきました。ところが2017年3月、その一月ほど前から息切れするようになり、胸のレントゲンを撮ったところ水が溜まっていると言われたのがこの病気の始まりでした。

 訳も分からず入院させられ、抜き取った胸水から異型細胞が見つかり、悪性胸膜中皮腫の疑いがあるのでもっと大きな病院で生検を受けるようにと告げられたのでした。

 中皮腫という病名には馴染みがなくアスベストが原因と言われても直ぐには思い当たることもなく、何かの間違いではないかと思いました。

 しかし、過去を振り返れば1983年(昭和58年)と1991年(平成3年)にそれぞれ数ヶ月かけて自宅兼事務所の増改築工事を居ながらにして行いました。外壁をサイディングに張替える工事など、庭で白煙をあげながら電動ノコで建材を切断する様子など眺めていたのでした。これらの工事が原因なら、その当時の大工さんも中皮腫を発症している恐れがあり大変気がかりです。

溜まる胸水

  2017年4月、T医大病院に胸腔鏡生検手術のため入院8日間。しかし胸膜に腫瘍らしいものは見つからず、病理診断は半年以上を要してもなお確定診断に至らない状況が続きました。

 宙ぶらりんに置かれたまま胸水だけは溜まり続け同年8月に2度目の胸腔穿刺で2000ml抜き、10月に1000ml、12月に1440mlの胸水を抜き、息苦しさと病気への不安を抱えて鬱々とした日々を過ごしました。

 胸水が何に依るものなのか原因が特定できないまま「困ったね〜」と医者は頭を抱えるばかりでした。やっと11月に「悪性胸膜中皮腫に間違いない」と言われてもまだ曖昧で、具体的治療への提案もありませんでした。

 中皮腫の外科手術の過酷さを思うと私は手術後のQOLを保つ自信もなく、内科的な治療でいこうと手術はしないつもりでした。

 とにかく胸水だけは止めてもらいたくて翌2018年1月、胸膜癒着術を受けるため12日間入院しましたが胸水は止まらず、むしろこの施術によるドレーン装着時の酷い痛みのマイナスイメージだけが残ってしまいました。

 この頃、ブログをきっかけに「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」を知り亀戸での集会にも参加し石綿健康被害救済法の件も教えてもらいました(そして2018年4月に申請し7月に認定されました)。

転院して抗がん剤

 T医大病院で徒らに一年が過ぎようとしていました。次第に不安と不信感がつのり、思い切ってセカンドオピニオンを経て転院を決断しました。

 2018年3月、S病院へ転院。そこで真っ先にPETで確認されたのが右肋骨の外側に広がった中皮腫の転移でした。それまでのT医大病院のCTでも確認できた筈なのに見落とされていたことに驚きました。胸腔鏡生検などで胸膜に開けた穴から外へ、肋骨の外側へ播種していたのでした。

 4月、肋骨の外側の腫瘍へ12回にわたる放射線治療。

 さらに5月から抗がん剤・アリムタとカルボプラチンの投与を開始。

 この抗がん剤の4クール目で胸水が一旦止まったように見えたのですが、引き続きのアリムタ単剤2クール目の10月で投与は中止となりました。胸水が一時的に止まったものの再び溜まりだしたことと、腫瘍の増大が認められたことが中止の理由でした。

 抗がん剤が効かないと判明したら、あとは免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブ(オプジーボ)しかないらしい。これは2018年8月にやっと厚労省から胸膜中皮腫にも保険適用が認められたばかりでした。

オプジーボ投与

 2018年11月からオプジーボの投与を開始したのですが、半年前に放射線を照射した右脇腹辺りに、浮腫みと疼痛、皮膚の赤み、右腕が持ち上がらない程の激しい痛みなどの“副作用”が出ていました。鎮痛剤とステロイド外用薬が手放せなくなり、医者からは長引く疼痛を「副作用の皮膚炎だけでなく腫瘍から来る痛み」だろうと言われていました。

 オプジーボは投与5回目でCTを撮り、効果が認められなければ投与中止とのこと、もしそうなら治療の選択肢が無くなってしまう不安が頭を過ぎります。

 胸水は相変わらず溜まり続け、毎月1000ml以上抜いてもらうような状態で、実感としてオプジーボが私には効いているようには思えませんでした。ノーベル賞に輝いた話題の新薬でしたが、実際の奏効率は3割と言われていますから投与が打ち切りになる覚悟もせねばならないかと思っていました。

 いよいよ結果を聞く日。オプジーボ開始前のCT画像(2018年10月)と今回、オプジーボを5回終えた(2019年1月)後の画像を並べてみると、転移した腫瘍が顕著に縮小していることが判りました。半分以下になっている感じでした。

 「効果があるようなので続けましょう」この先生の言葉がどんなに嬉しかったか知れません。尿検査・血液検査では一時的に数値に異常が出たりしながらも副作用はほぼ問題なく、オプジーボを継続する事になりました。

皮膚炎か腫瘍の痛みか

 とはいえ、右脇腹の痛みは続いていました。その原因が転移した中皮腫によるものか、そこへ照射した放射線による皮膚炎によるものか、どちらから来る痛みなのか曖昧な納得できない気持ちのまま、ステロイド外用薬を使い続けました。

 先日(2019年5月10日)18回目の胸腔穿刺で1500mlの胸水を抜いてもらった時、あらためて先生に訊ねました。

「最近やっと痛みと浮腫みが消えステロイド外用薬も使わないで過ごせるようになりました。これは外用薬の効果ですか、それともオプジーボの効果なのでしょうか」

 すると先生は「ステロイド外用薬は皮膚の表面には効くけれど、皮膚のさらに奥の腫瘍に効いたのはオプジーボ」とのことでした。私は、皮膚炎と腫瘍の両方からの痛みを、放射線の“副作用”だとばかり思い外用薬をひたすら塗ってきていたのでした。

オプジーボに期待

 オプジーボ10回目で撮ったCT(2019年4月)では、前回5回目のCT(2019年1月)の時ほど顕著な腫瘍の縮小は見られませんでした。しかし実感として皮膚炎は治り、腫瘍による瘤のような膨らみも小さくなった気がしています。

 ただ、今の私にとって一番の問題は胸水です。2017年3月の発症以来、2年と2ヶ月を経た今も、ほぼ毎月、胸腔穿刺を繰り返し、その都度1000ml以上の水を抜いています(この2年間で18回、累計24740ml、牛乳1000ccのパックに換算すると24本分の水を抜いたことになります)。

 胸部X線やCTで胸膜には見当たらない中皮腫細胞が私の場合は胸水の中から見つかります。オプジーボが胸水の中にいる中皮腫細胞に働き、胸水が止まることを願う日々です。

腹膜・心膜・精巣鞘膜中皮腫におけるニボルマブ(オプジーボ)使用についての署名のお願い

胸膜中皮腫のセカンドラインの治療薬として、昨年、ニボルマブ(オプジーボ)が保険適用薬として使用されるようになりました。
一方、胸膜中皮腫以外の腹膜等の中皮腫(腹膜、心膜、精巣鞘膜)の患者は非該当とされたままです。
腹膜等の中皮腫患者は、胸膜中皮腫に準じる治療を受けています。
私達は、腹膜等の中皮腫患者にも胸膜中皮腫と同様の治療の選択肢を一日も早く認めて頂きたいと願っています。
この切実な思いを以下の要望にまとめ、政府、薬品会社、医療者の皆さんに届けたいと思います。
できるだけ多くの中皮腫患者の方々にこの要望に加わって頂きますようお願いいたします。同時に、患者家族をはじめ、多くの皆さんにご賛同の署名を頂きますようお願いいたします。
2019年6月7日
中皮腫サポートキャラバン隊
共同代表 栗田英司・右田孝雄