【劇団員も労災になる!?】労働者性の判断がむずかしかった事例

埼玉にお住いの中皮腫のAさん。劇団員の舞台俳優をしていた時代があり、地方公演などで全国各地の学校や公共施設で演劇活動をされていました。「俳優」と言えば、聞こえはいいですが、小規模な劇団員の一員として舞台設営などもされていました。学校の体育館などは天井に吹き付け石綿などが使用されており、Aさんは照明器具の取り付けなどをされていました。取り付け時に、石綿に直接触れるなどの環境にありました。

しかし、当初は「劇団員?趣味でされていたことだから労災は関係ない」と私自身、誤認していました。支援する立場として明らかに誤った対応をしてしまったと後悔しています。Aさんと出会ってからしばらくは労災請求のご支援もできず、1年ほどのちにご他界されました。

その後、ご遺族の努力で、劇団員時代の「仲間」に石綿ばく露の状況も含めて劇団でのお話を聞かせていただくことができました。その時点でも、労災認定に向けての不安材料は大きく2つありました。

一つは、石綿ばく露は推認できても、「場所の特定」が満足にできていなかったこと。建設労働者の方などであれば「石綿による疾病に係る事務処理の迅速化等について」の通達が適用されますが、Aさんの場合は劇団も残っていましたので、事業場である劇団の主張も重要になってきます。もう一つは、「労働者性」の有無です。地方公演の時だけ、一日あたり数千円の日当をもらっていたとのことでした。ただ早い段階で、「労働基準法研究会労働契約等法制部会の「労働者性検討専門部会報告」(平成8年)と労働基準法研究会「労働基準法の「労働者」の判断基準について」(昭和60年)参照し、なんとか労働者性は認められるのではないかと判断しました。

不安は払拭されませんでしたが、「やるべきことはやった。あとは請求!」という意気込みでご遺族に請求を促しました。請求にあたっては、所属していた劇団にも協力を求めましたが、非常に親身になって対応をしてくださりました。

請求から約1年。なんとか労災認定となりました。

石綿ばく露にあたっては、具体的な現場の特定はできませんでしたが、劇団仲間(元同僚)の方の証言(体育館の天井などにあがって作業をするなど)と、その証言を事業主である劇団も否定しなかったことで石綿ばく露があったことが認定されました。

また、労働者性については、①キャスティングに関する拒否権が認められない(大物俳優であれば、自分で仕事を取捨選択できる立場の方もいます)、②キャスティング決定後に自分の判断で代役を立てる権限がなかった、③演技で舞台セットなどは舞台監督等の指示に従っていた、④公演およびその準備にかかるタイムスケジュールは管理されていた、⑤報酬は、公演依頼のあった学校から劇団に支払われ、その中から劇団員に報酬が支払われていた、などの理由から「被災者は演劇の事業を行う当該事業場との使用従属関係の下に労務を提供していたものと認めるのが相当である。したがって、被災者は労働基準法第9条に定める『労働者』と認めることとしたい」と判断されました。

書いていると、認定されて当然という印象ですが、Aさんと知り合った当初は「劇団員=趣味の範疇=労働者ではない」という先入観によって労災の可能性を安易に持ってしまっていました。

労働者であるか否かについては、ご本人さんもまったく自覚がないケースもあります。Aさんもそうでした。ご本人の考えとは違う角度から、丁寧な事実の積み上げと判断をしていかなければならないと教えられた問題でした。